掲載誌:Genetics and Molecular Research
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ベニバナは乾燥に強い油糧作物で、インドではラビ期(冬から春にかけての作期)に栽培されます。インドはかつて世界最大の生産国でした。一方、カザフスタンなど他の地域では生産が広がっています。そこで、インドの地位がどこまで揺らいだのか、輸出で今も強みを持っているのかが問題になります。
著者らによると、インドの油糧作物貿易は主要作物全体としては研究されてきました。ベニバナについては、流通の仕組みや農家経営の研究が中心でした。世界の生産におけるインドの位置づけと、ベニバナ種子の輸出競争力をあわせて調べた研究はなかったといいます。この研究はその空白を埋めることを目指しました。具体的には、世界とインドの生産動向、インド国内の伸びと不安定さ、州ごとの分布、輸出の実績と競争力を分析しています。
何を調べたか
研究チームは、公開されている統計データを使いました。生産については、国連食糧農業機関の統計(FAOSTAT)から2000〜2024年の収穫面積、生産量、単位面積あたりの収量を集めました。州別のデータは、インド政府農業・農民福祉省の2019-20年度から2023-24年度の数値です。貿易については、国際貿易センターのデータベース(ITC Trade Map)から、2014〜2024年のベニバナ種子の輸出入額を用いています。
分析では、まず面積・生産量・収量・輸出額について、年平均でどれだけ増減したか(複合年成長率)を求めました。次に、長期的な傾向を差し引いたうえで、年ごとの変動がどれほど大きいかを示す不安定性の指標も計算しています。
輸出競争力については、いくつかの指標を組み合わせました。「顕示比較優位指数(RCA)」は、ある国の輸出全体に占めるベニバナ種子の割合を、世界の輸出全体に占める同じ割合と比べたものです。1を超えると、その品目に比較優位があるとみなされます。「貿易特化指数」は、輸出から輸入を引いた額を貿易総額で割った値です。−1なら輸入だけ、+1なら輸出だけの国を意味します。さらに、輸出先がどれだけ少数の市場に偏っているかを測る集中度の指数も使いました。
主な結果
世界のベニバナ生産量は、2000年の65万2440トンから2024年の69万2515トンへ増えました。世界平均の収量も、1ヘクタールあたり752キロから829キロに上がっています。しかし、主要生産国の顔ぶれは大きく変わりました。インドは2000年に世界生産の39.91%を占める首位でしたが、2024年には7.25%で5位に下がりました。2024年の首位はカザフスタン(33.03%)、2位はロシア(23.05%)です。
インド国内では、2000〜2024年に栽培面積が年率8.90%、生産量が年率7.51%のペースで減りました。収量は年率1.53%増えています。著者らは、生産の減少は収量ではなく面積の縮小によるものだと述べています。期間を2000〜2012年と2013〜2024年に分けると、後半は面積と生産量の不安定さが大きく高まりました。著者らはこの結果を、最近10年ほどの縮小がより急で、より不規則になったことを示すものとしています。2024年のインドの収量は1ヘクタールあたり768キロでした。世界平均をやや下回り、メキシコ(1520キロ)や中国本土(1468キロ)の約半分です。
州別に見ると、生産は少数の州に集中しています。カルナータカ州とマハーラーシュトラ州の2州で、各年の全国生産の86.55〜92.05%を占めていました。2023-24年度には、カルナータカ州の全国シェアが62.22%から25.23%に下がりました。逆に、マハーラーシュトラ州は25.56%から63.47%に上がっています。著者らは、このような集中と急な入れ替わりのため、全国の供給が2州の状況に左右されやすいと指摘しています。
輸出では、インドのRCAは2014〜2024年を通じて1を上回り、比較優位を保ちました。ただし、その値は8.17から2.09に下がっています。世界の輸出に占めるシェアも13.93%から3.95%に低下しました。2024年の上位10輸出国のうち成長率を計算できた国の中で、輸出額が減ったのはインドだけで、減少ペースは年率10.76%でした。貿易特化指数は0.999で、インドはほぼ輸出に特化した純輸出国です。
輸出先は少数の市場に偏っていました。2024年の主な輸出先は、フィリピン(31.44%)、台湾(18.15%)、韓国(14.71%)、日本(10.84%)でした。東アジア・東南アジアの限られた買い手に依存しています。著者らは、こうした依存が、それらの市場での需要の変化や競争の影響を受けやすくすると述べています。
なお、著者らはデータ上の注意点も挙げています。ロシアは2022〜2024年の輸出データを報告していません。このため、2022年以降はインドを含む他国の輸出シェアやRCAが高めに出る傾向があります。また、貿易額は当時のドル建てで、価格の変化と数量の変化の両方を含んでいます。
研究が示すこと
この研究は、かつて世界一だったインドのベニバナが、栽培面積の縮小によって生産の首位を失ったことを統計で示しました。生産の中心は中央アジアやロシアに移っています。インドは輸出面で比較優位を保っているものの、その強みと世界での存在感は弱まっていました。
著者らは政策上の示唆として、次の点を挙げています。農家の収益を高めて栽培面積を維持・拡大すること、良質な種子や栽培技術で収量を上げること、生産を他の天水地域にも広げて特定の州への集中を和らげること、輸出先を広げることです。インドのベニバナが直面する課題は、収量よりも作付けが続くかどうか、そして生産地と販売先の偏りにあることが、この研究から読み取れます。
原著論文の著者・所属:Vimal M、Moghana Lavanya S、Mahendran K、Ramesh D、Thamaraiselvi S P
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vimal M, Moghana Lavanya S, Mahendran K, Ramesh D, Thamaraiselvi S P PRODUCTION TRENDS AND EXPORT COMPETITIVENESS OF INDIAN SAFFLOWER (CARTHAMUS TINCTORIUS L.): A GLOBAL PERSPECTIVE. Genetics and Molecular Research 2026-10-27. DOI: 10.4238/thz4qy34. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。