タピオカやでんぷんの原料として世界中で利用されているキャッサバ。その加工過程では大量の「キャッサバ残渣」という副産物が出ます。炭水化物は豊富ですが、タンパク質や脂質が少なく、そのままでは家畜の飼料としての価値が限られているとされてきました。さらにキャッサバには青酸配糖体などの成分も含まれており、扱いには注意が必要です。こうした農産加工副産物を、どうすれば無駄にせず活用できるのか――今回紹介する研究は、微生物の発酵の力を借りてこの課題に挑んだものです。
研究チームが着目したのは、ポリ-γ-グルタミン酸(γ-PGA)という物質を高く産生するBacillus subtilis SCP010-1株という菌です。γ-PGAを作る枯草菌は、動物の成長や免疫、健康に役立つ活性成分を生み出すことが知られているとされています。この菌を使い、キャッサバ残渣を固体発酵(水分を多く加えずに行う発酵方法)させることで、飼料としての質を高められるかを検証しました。
研究でわかったこと
研究では、動物を用いた飼育試験に加え、メタボロミクス(代謝物を網羅的に調べる手法)やメタゲノミクス(腸内細菌叢を遺伝子レベルで解析する手法)を組み合わせて、発酵キャッサバ残渣(FCR)の栄養的な質、給餌の安全性、腸内環境への影響が多角的に評価されました。
スケールアップした発酵キャッサバ残渣では、γ-PGAの産生量が1kgあたり56.36gに達したと報告されています。また、遊離アミノ酸は1gあたり17.84μgから290.87μgへ、小ペプチドも大きく増加したとされています。一方で、キャッサバに含まれる青酸は1kgあたり7.38mg、フィチン酸は1.63mg、タンニンは0.04%まで減少したことが示されました。代謝物の解析では、アミノ酸やその関連物質が増加し、有機酸や植物由来の代謝物が減少する傾向がみられ、アミノ酸代謝やγ-PGAの生合成が活発になっていることがうかがえると報告されています。
さらに30日間のマウス試験も行われました。キャッサバ残渣をそのまま20%または40%配合した餌では、成長が抑えられ、肝機能や免疫力にも低下がみられたとされています。これに対し、発酵させたキャッサバ残渣(FCR)を配合した群では、対照群と同程度の良好な結果が得られ、40%配合が最適な水準として示唆されたとのことです。
加えて、メタゲノミクス解析からは、発酵キャッサバ残渣の摂取によって腸内細菌叢の構成が変化し、DubosiellaやBacillusといった有用とされる菌属が増える傾向が確認されたと報告されています。これらの菌の増加は体重増加と正の相関を示し、血液中のALT・AST(肝機能の指標)や脂質関連の値とは負の相関を示したとされています(p<0.05)。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の菌株を用いた固体発酵という手法によって、キャッサバ残渣の栄養価と生物学的な効果を高められる可能性を示したものです。ただし、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今回の結果はマウスを用いた実験に基づくものであり、要旨内では他の動物種や実際の畜産現場での効果については言及されていません。また、示された相関関係は因果関係を直接証明するものではない点にも留意が必要です。
まとめ
タンパク質や脂質に乏しく、青酸などの成分も含むキャッサバ残渣は、これまで飼料としての活用が限られてきました。今回の研究では、γ-PGA産生菌による固体発酵を通じて、アミノ酸や小ペプチドが増加し、有害成分が減少するとともに、マウスの成長や肝機能、腸内細菌叢のバランスにも良好な変化がみられたと報告されています。農産加工の副産物を有効活用する一つの手段として、今後さらなる検証が期待される研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ポリ-γ-グルタミン酸産生Bacillus subtilisによる固体発酵を用いたキャッサバ残渣の飼料価値向上とその給餌効果(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)