この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Revista Brasileira Multidisciplinar

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜこの研究が行われたか

ブラジルのサンタクルスドスル大学の研究チームは、アメリカミズアブ(学名 Hermetia illucens、英語では black soldier fly)の幼虫を家畜や魚のえさに利用する動きについて、近年の研究成果を体系的に整理した総説を発表しました。この幼虫は英語の頭文字をとって「BSFL」と呼ばれます。

研究チームがこのテーマを取り上げた背景には、二つの課題があります。一つは有機廃棄物をどう持続的に処理するかという問題、もう一つはたんぱく質源への需要が世界的に増え続けているという問題です。論文によれば、BSFLの幼虫は食品廃棄物、農産加工の副産物、農業残渣など幅広い基質を効率よく食べ、従来の堆肥化よりも短い期間でそれらを処理します。この「生物変換(バイオコンバージョン)」を通じて廃棄物を良質なたんぱく質に変える働きが、二つの課題に同時に応える手立てとして注目されていると著者らは述べています。

飼料産業は現在、魚粉や大豆粕といった限られた原料に強く依存しており、それが土地や水への負荷、価格の変動につながっています。著者らは、この代替策としてのBSFLの可能性と、規制や大規模飼育技術といった障壁の双方を見通すことを本レビューの目的に掲げました。

どのように調べたか

研究チームは体系的な文献レビューという方法をとりました。あらかじめ手順を定めたうえで、Science Direct、Scopus、Web of Science という三つの学術データベースを対象に、2014年から2024年までに発表された論文を検索しています。検索には「Black Soldier Fly」「Animal Feed」「Fatty Acid Profile」「Application」といった語をブール演算子(AND や OR などで検索条件を組み合わせる方法)でつないで用い、結果を絞り込みました。

一次選別のあと、テーマとの適合性と方法論の質を基準に各論文を評価し、抽出した情報を比較しながら整理しています。あわせて、Web of Science のデータを対象に VOSviewer というソフトウェア(版 1.6.19)を使った計量書誌分析も行われました。

レビューが報告した主な内容

栄養面について、著者らは先行研究を引きながら、BSFLの粗たんぱく質含量が乾物あたりおおむね35〜60%の幅をとり、40%を超える報告がしばしばあると紹介しています。必須アミノ酸のバランスが取れているため生物学的な利用効率が高く、脂質も乾物あたり30%以上に達することがあり、リノール酸やリノレン酸といった必須脂肪酸を含みます。さらにカルシウム、リン、鉄などのミネラルや、ナイアシン、リボフラビンといったビタミンB群の供給源でもあると整理されています。

家畜の種類ごとの知見も分野別にまとめられました。養殖魚では、BSFL粉は大豆粕よりたんぱく質含量が高く、魚粉とは同等であるという報告が紹介され、ナイルティラピア、コイ、ニジマス、ヨーロッパスズキ、ヨーロッパヘダイ、サケ、観賞魚など多様な魚種で試験が行われてきたことが示されています。ノルウェーの商業的環境で行われた試験では、脱脂BSFL粉を4%と8%配合した飼料を21週間与えたサケで、飼養成績が維持され腸の健康も損なわれなかったと報告されました。家禽では、肉質や成長への良好な反応に加え、腸でのカルシウム吸収、卵の重量、卵黄の割合などの指標に関する報告が紹介されています。養豚では研究の多くが栄養面に関するものですが、生きた幼虫を与えることが豚の探索行動を促し環境エンリッチメント(飼育環境を豊かにする工夫)として働き、離乳期のストレス軽減にもつながりうるとする報告も取り上げられました。

一方、反芻動物(牛など胃が複数に分かれた動物)での研究は乏しいと著者らは指摘します。その理由として、多くの国でBSFLを与えてよい動物のリストから反芻動物が除外されている法規制を挙げています。論文が紹介する Fukuda ら(2022年)の研究は、牛を対象とした初の生体給餌試験として、低品質の粗飼料を食べる牛にBSFLを与えても消化率やルーメン(第一胃)発酵を損なわなかったと結論づけたものです。

規制の状況も国・地域ごとに整理されました。米国ではBSFLの乾燥粉と乾燥全虫が飼料原料として扱われ、由来する油も成犬・豚・魚向けに認められているとされます。一方でメキシコやアジア・アフリカの多くの国では、食用昆虫の長い伝統があるにもかかわらず固有の規制が十分に整っていないと著者らは述べています。産業面では、オランダのProtixをはじめ、カナダ、ドイツ、フランス、米国、ベトナム、チリなどに大規模生産に取り組む企業があることが紹介されています。

この総説が示す意味

著者らは結論として、BSFLの高いたんぱく質含量は家禽・豚・魚の飼料におけるたんぱく質源として相当の潜在力をもつ一方、反芻動物への応用に関する情報はまだ限られていると述べています。また、これらの研究は比較的新しいものではあるものの、調べられた動物において有害な影響は記録されていないとし、その点がBSFLを大豆粕や魚粉の実行可能な代替として位置づける見方を支えるとしています。

現時点での大きな障壁として著者らが挙げるのは、食品安全に関わる法規制です。廃棄物を食べる昆虫を飼料に変えるという発想は、限られた資源への依存を減らす一つの道筋を示していますが、それが実際にどこまで広がるかは、規制の整備と受容の進み方に左右される——本レビューはそうした現在地を描き出しています。

著者:Daniela da Costa e Silva(Universidade de Santa Cruz do Sul (UNISC))、Andreas Köhler(Universidade de Santa Cruz do Sul (UNISC))、Diego Prado de Vargas(Universidade de Santa Cruz do Sul (UNISC))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daniela da Costa e Silva, Andreas Köhler, Diego Prado de Vargas. Avanços da utilização de Hermetia illucens (Diptera: Stratiomyidae) na alimentação animal. Revista Brasileira Multidisciplinar 2026-08-31. DOI: 10.25061/2527-2675/rebram/2026.v29i2.2483. 原著ライセンス:CC BY.