著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:MycoKeys
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
Nekemias grossedentata(別名Ampelopsis grossedentata)は、ブドウ科のつる性植物です。葉は「つる茶(vine tea)」として飲まれ、食用・薬用として経済的に重要とされています。自生地は主に中国南部で、湖北省の恩施州はその中心的な産地です。恩施のつる茶は中国の国家地理的表示産品にもなっています。
この植物では、カビの仲間(真菌)による病気が問題になっています。葉の斑点や枯れを起こし、株全体が枯死することもあり、品質や収量を大きく損ないます。これまでに4種の病原菌が記録されていました。また、ある研究では新種のConiella属菌がこの植物から報告されましたが、実際に病気を起こすかどうかは調べられていませんでした。
2025年、恩施州のつる茶農園で葉の病気が深刻に発生しました。研究チームは病気の葉から真菌を分離し、その正体を特定することを目的としました。
複数の証拠を組み合わせて種を見分ける
研究チームは2025年に農園の複数地点で調査し、はっきりした症状のある83試料を集めました。病斑の縁から組織を切り出して培養し、116の純粋な菌株を得ています。
真菌の種類は、胞子の形や大きさだけでは見分けにくいことがあります。近縁の種どうしで見た目がよく似ているためです。そこで著者らは、複数の証拠を組み合わせる「統合分類学」という方法を用いました。まず、培地上での菌の育ち方や胞子の形を顕微鏡で観察しました。次に、複数の遺伝子領域のDNA配列を読み、近縁種との系統関係(進化上の枝分かれ)を推定しました。さらに、配列の違いから種の境界を自動で判定する複数の解析法を使いました。DNA配列中の一塩基の違いをまとめて、集団どうしの遺伝的な隔たりを図示する解析も行っています。
病気の原因であることを確かめるため、病原性試験も行いました。つる茶の生きた葉に菌を接種し、7日後に病斑の大きさを測りました。病斑から同じ菌が再び分離されることも確認しています。これは、ある微生物が病気の原因であると示すための古典的な手順(コッホの原則)に沿ったものです。
3つの属にまたがる新種と、その病原性
解析の結果、研究チームは3種を新種と結論し、記載しました。Coniella ampelopsidis、Colletotrichum enshiense、Pestalotiopsis ampelopsidisです。系統解析では、それぞれが既知の近縁種(Coniella castanea、Colletotrichum fructicolaやC. mengyinense、Pestalotiopsis rhodomyrtiなど)とは別のまとまりを作りました。一塩基の違いに基づく解析でも、3種はそれぞれ近縁種と分かれた集団として示されました。
ただし、すべての方法が同じ答えを出したわけではありません。特にColletotrichum属とPestalotiopsis属では、遺伝子領域を1つずつ距離で比べる方法だと、新種候補と近縁種を区別しきれない場合がありました。論文はこれを、これらの属で遺伝子配列の変化が少ないためと説明しています。著者らは、ほかの方法の結果や形態の違いとあわせて総合的に判断しました。形態では、たとえばColletotrichum enshienseは近縁種より明らかに小さい楕円形〜卵形の胞子を作ると報告されています。
病原性試験では、3種すべてがつる茶の葉に病気を起こしました。ただし病原力には差がありました。最も強かったのはConiella ampelopsidisです。不規則に広がる黄褐色の病斑を作り、平均の直径は約20.8ミリに達して葉の壊死を招きました。Pestalotiopsis ampelopsidisとColletotrichum enshienseは暗褐色の円形の斑点を作りました。平均直径はそれぞれ約9.8ミリと約10.2ミリで、両者の病原力に有意な差は見られませんでした。
この研究が示すこと
この研究は、系統的に遠く離れた3つの目に属する病原菌が、同じつる茶の葉に共存していることを記録しました。つる茶で知られる病気の範囲を広げる成果です。Pestalotiopsis属については、論文中でAmpelopsis属の植物への感染が正式に報告されていなかったとされ、この属の既知の宿主の範囲も広げることになりました。
著者らは考察で、3種の近縁種がブナ科樹木の病原菌や多くの植物に感染する菌であることに注目しています。そのうえで、周囲の森林の植物からつる茶へ宿主を乗り換えた可能性を挙げました。ただし、この仮説を確かめるには追加の接種試験やゲノム解析などが必要だとしており、現時点ではあくまで仮説の段階です。
全体として本研究は、見た目では区別しにくい病原菌を、複数の証拠を組み合わせて見分けられることを示しました。著者らは、この成果がつる茶産地での病気の監視や総合的な防除の科学的な土台になるとまとめています。
原著論文の著者・所属:Shi-Qiang Chen(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Xin-Tong Zhou(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Xiao Mou(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; State Key Laboratory of Mycology, Institute of Microbiology, Chinese Academy of Sciences, Beijing, China)、Shen-Xian Zhou(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Qian Deng(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Jian-Xin Deng(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Hong Luo(Enshi Tujia and Miao Autonomous Prefecture Academy of Agricultural Sciences, Enshi, China)、Qing-Hua Chen(Enshi Tujia and Miao Autonomous Prefecture Academy of Agricultural Sciences, Enshi, China)、Hai-Feng Liu(Department of Plant Protection, College of Agriculture, Yangtze University, Jingzhou, China; Forewarning and Management of Agricultural and Forestry Pests, Hubei Engineering Technology Center, Yangtze University, Jingzhou, China)、Chao-Yang Zhang(Enshi Tujia and Miao Autonomous Prefecture Academy of Agricultural Sciences, Enshi, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shi-Qiang Chen, Xin-Tong Zhou, Xiao Mou, et al. Integrative taxonomy reveals three novel pathogens belonging to Coniella, Colletotrichum and Pestalotiopsis on Nekemias grossedentata in China. MycoKeys 2026-09-11. DOI: 10.3897/mycokeys.140.200783. 原著ライセンス:CC BY.