東アジアや東南アジア、さらにヨーロッパやアメリカの一部でも親しまれているアジア式塩味麺(ASN)は、ビタミンやミネラル、食物繊維といった栄養素や、健康に良いとされる生理活性成分が不足しがちな食品だといわれています。そこで、この不足を補う方法として注目されたのが、赤いビートルート(Beta vulgaris)を粉末にした「赤ビートルート粉末(RBP)」です。この研究では、RBPをアジア式塩味麺に最大30%まで添加し、麺の製造工程(生地づくりから乾燥・保存・調理まで)を通じてどのような変化が起きるかを詳しく調べています。

研究でわかったこと

ニュージーランド・オークランド大学化学科の研究者らによるこの研究では、RBPを添加したアジア式塩味麺について、調理特性、テクスチャー(食感)、栄養特性、官能特性(見た目や食べたときの印象)などが多角的に評価されました。

まず調理に関する特性では、RBPの添加によって調理歩留まり(茹でた後に麺がどれだけ重くなるか)が1.69から1.96へと増加し、調理損失(茹で汁に溶け出す成分の割合)も8.00%から15.0%へと増加したと報告されています。一方で、硬さは7370gから3380gへ、噛みごたえ(チューイネス)は8200gから2390gへとそれぞれ低下したとされています。これは、RBPの添加によって生地の構造的な強さが弱まったためと考えられており、この点は生地の粘弾性を調べるミキソグラフ分析や、でんぷんの糊化特性を調べるパスティング分析の結果にも表れていたということです。

栄養・機能性の面では、ビートルート由来の色素成分であるベタシアニンの量や、抗酸化能がRBP添加によって高まったと報告されています。また、推定血糖指数(食後の血糖値の上がりやすさを示す指標)は、RBPの添加量が多いほど低下する「用量依存的」な傾向がみられたとされています。

さらに、麺の製造工程が成分に与える影響についても調べられており、乾燥や保存の過程では、調理(茹でる工程)よりもベタシアニン含量の減少がより大きかったと報告されています。加えて、加工の過程でベタニンという成分がイソベタニンという別の形へと異性化する(構造が変化する)ことも確認されたとされています。

総合すると、RBPを10%程度まで添加した麺では、テクスチャーや官能評価の面で好ましい特性が保たれていたとまとめられており、RBPが麺づくりにおける機能性素材として活用できる可能性が示されたとしています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

著者らは、生のビートルート入り麺におけるでんぷんの消化性や推定血糖指数、また麺の加工過程でのベタシアニン含量や構造の変化を調べたのはこの研究が初めてであると位置づけています。血糖値の上昇が緩やかになることが示唆される麺は、市場にある栄養強化食品の選択肢を広げる可能性があるとされていますが、これは一つの研究による知見であり、効果を断定するものではありません。今回の記事で紹介した数値や傾向は、あくまでこの論文で報告された実験条件のもとでの結果である点にも留意が必要です。

まとめ

この研究は、栄養面で不足しがちなアジア式塩味麺に赤ビートルート粉末を加えることで、抗酸化に関わる成分や色素成分が増える一方、食感が変化し、血糖指数が低下する傾向がみられたことを報告するものです。特に10%程度の添加量では、食感や官能面でのバランスも保たれていたとされており、今後の機能性食品開発における一つの知見として位置づけられます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:赤ビートルート粉末を強化したアジア式塩味麺における加工に伴う生理活性成分、理化学的、栄養的、官能的特性の変化(シリアル・ケミストリー・2026年08月)