この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

骨粗しょう症は、骨の密度が下がり、骨の内部構造が壊れていくことで骨折しやすくなる状態です。世界中で多くの人が抱える公衆衛生上の問題であり、著者らは米国では50歳を超える人のうち推定1000万人が影響を受けているとする報告を引用しています。

食事のなかでも、ナトリウム(塩分の主成分)の摂取量は、本人の努力で変えられる可能性のある要因として関心を集めてきました。ただし、これまでの研究結果は一致していません。研究チームは、1980年代の動物実験でナトリウムの過剰摂取が尿への カルシウム排出を増やし骨粗しょう症リスクを高めるとされたことや、閉経後の女性を対象にした研究で高ナトリウム摂取と骨代謝マーカーの上昇に正の関連が報告されたことを紹介する一方で、関連を確認できなかった研究や、減塩がカルシウムやマグネシウムなどの収支をマイナスにして逆にリスクを高めうるとする指摘もあると述べています。

こうした食い違いは、研究方法の制約や対象人数の少なさ、追跡期間の短さ、対象集団の違いから生じている可能性があります。そこで研究チームは、性質の異なる二つの手法を組み合わせて、ナトリウム摂取量と骨粗しょう症の関係を改めて調べました。

二つの手法を組み合わせた調べ方

一つ目は、米国の全国健康栄養調査(NHANES)のデータを使った観察研究です。NHANESは米国疾病対策センターと国立保健統計センターが実施する、面接・身体計測・検査を標準化した手順で行う全国規模の調査で、米国の人口全体を代表するデータが得られるよう設計されています。研究チームは2005〜2010年、2013〜2014年、2017〜2018年の調査回から、20歳以上で2日分の24時間食事思い出し調査と骨粗しょう症に関する質問票に回答し、骨代謝に影響する病気や薬の使用などの条件に当てはまらない人を選び、当初の5万463人から最終的に3350人を分析対象としました。ナトリウム摂取量は米国農務省の食品成分データベースを用いて1日あたりのミリグラム数として算出し、骨粗しょう症の有無は「骨粗しょう症と言われたことがあるか」という自己申告の質問項目で判定しています。研究チームはこの点について、骨密度測定に基づく診断の代わりにはならず、誤分類や記憶違いが生じうる限界だと明記しています。

二つ目は、メンデルランダム化(MR)と呼ばれる手法です。これは、遺伝子のわずかな個人差が親から子へ受け継がれる際にほぼ偶然で決まり、生活環境の影響を受けにくいという性質を利用して、ある要因と病気のつながりを調べる方法です。生活習慣などが結果をゆがめる「交絡」や、原因と結果が逆になっている可能性を減らせる利点があります。この研究では、食事由来のナトリウム摂取量そのものの遺伝データが利用できなかったため、尿中ナトリウムを代わりの指標(代理指標)として使いました。24時間の尿中ナトリウム排出量は集団レベルでナトリウム摂取量を評価する基準的な方法とされていますが、研究チームはこの代理の使用自体が限界であることも断っています。解析には欧州系32万6831人の尿中ナトリウムに関する遺伝データと、21万2778人(骨粗しょう症3203人を含む)の骨粗しょう症に関する遺伝データが用いられ、31か所の遺伝子変異を道具として使いました。

報告された主な結果

NHANESのデータでは、ナトリウム摂取量が多いほど骨粗しょう症のオッズ(ありそうな度合い)が低いという、逆向きの関連が報告されました。摂取量で4つのグループに分けた解析では、年齢・性別・生活習慣・代謝指標などを幅広く調整したうえで、最も少ないグループ(1日4677mg以下)と比べて、第3グループ(6150mg超7965mg以下)は52%低く(オッズ比0.48、95%信頼区間0.30〜0.78)、最も多いグループ(7965mg超)は49%低い(オッズ比0.51、95%信頼区間0.28〜0.93)という結果でした。ただし、摂取量を連続した数値として扱った解析では、効果の大きさはごくわずかだったと述べられています。

属性別に分けた解析では、集団によって結果が異なりました。女性では摂取量が増えるほどリスクが下がる傾向がみられ、最も多いグループは最も少ないグループより68%低いと報告されています。一方、男性ではこの関連に統計的な有意差はありませんでした。

遺伝情報を使ったMR解析では、主たる方法である逆分散加重法で逆向きの関連が示され(オッズ比0.51、95%信頼区間0.28〜0.95)、重み付け中央値法でも同様の結果でした。ただしMR-Egger回帰による推定値は有意ではなく、信頼区間も非常に広いものでした。研究チームは、この点について、遺伝子変異が想定外の経路を通じて結果に影響する「水平多面発現」の可能性を完全には排除できていないことを意味すると説明しています。

この結果をどう受け止めるか

研究チームは自ら、この結果を食事の推奨に読み替えるべきではないと繰り返し注意を促しています。骨粗しょう症の判定が自己申告に基づくこと、尿中ナトリウムはあくまで代理の指標であること、MR解析の対象が欧州系集団に限られること、NHANESの解析が一時点を切り取った横断デザインで因果関係の判断には向かないこと、カルシウムやマグネシウムなど他の栄養素との相互作用を十分に評価できていないことなどが、限界として挙げられています。解析で見えた「この値を超えるとリスクが下がる」という折れ曲がり点も、この研究に特有の統計的な特徴であって、目指すべき摂取量ではないと明記されています。

さらに重要な点として、高いナトリウム摂取が高血圧や脳卒中といった循環器系の病気のリスクを高めることは既によく知られています。研究チームは、骨に関する結果と循環器の安全性とのあいだにはトレードオフがありうるとして、慎重な解釈を求めています。

この研究が示したのは、確立された結論ではなく、今後検証されるべき仮説です。ナトリウムと骨の関係はこれまで相反する報告が続いてきた領域であり、著者らは、骨密度の実測を含む前向き研究や、異なる集団での検証によって、この関連の信頼性と背後にある仕組みを明らかにする必要があると結んでいます。

著者:Yunxiao Ji(Beijing Ditan Hospital Capital Medical University Beijing China)、Zibo Fan(Beijing Ditan Hospital Capital Medical University Beijing China)、Rugang Zhao(Beijing Ditan Hospital Capital Medical University Beijing China)、Changsong Zhao(Beijing Ditan Hospital Capital Medical University Beijing China)、Qiang Zhang(Beijing Ditan Hospital Capital Medical University Beijing China)、Xinbao Wu(Department of Orthopaedic Trauma Beijing Jishuitan Hospital, Capital Medical University Beijing China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yunxiao Ji, Zibo Fan, Rugang Zhao, et al. Sodium Intake and Osteoporosis Risk: Evidence From NHANES and Mendelian Randomization Analysis. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72147. 原著ライセンス:CC BY.