私たちは食事のとき、口の中で食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜ合わせながら、飲み込みやすい塊(食塊)へと変化させています。この一連の過程は当たり前のように行われていますが、固形の食品がどのようにして流動性のある塊に変わっていくのかを、力学的な数値で説明することは簡単ではありません。今回、東北大学大学院農学研究科の研究グループが、この過程を定量的に評価する研究成果を発表しました。

研究グループは、ゼラチンおよび寒天をベースにしたゲル(ハイドロコロイドゲル)をモデル食品として用い、固体構造が咀嚼によって食塊のような状態へ移行する過程を調べました。具体的には、動的粘弾性測定という手法により、ゲルが固体成分と液体(水分など)が混ざり合った濃厚な分散系へと変化する際の弾性(貯蔵弾性率G′)と粘性(損失弾性率G″)を計測しています。

研究でわかったこと

測定の結果、G′とG″は、分散系に含まれる固形分の質量割合に対してべき乗則と呼ばれる規則的な関係を示すことがわかりました。この関係は、Ks′・Ks″・m′・m″という4つのパラメータで表されています。Ks′とKs″はそれぞれ食塊が持つ弾性的な性質と粘性的な性質の大きさを表し、m′とm″は液体が加わることで構造がどれだけ壊れやすいかという感度を表す指標とされています。

さらに研究グループは、咀嚼によって食品の比表面積(表面積の増加度合い)がどれだけ増えるかから「破砕係数(k)」を算出し、噛み砕きの効率を数値化しました。加えて、固体の弾性変形に対する抵抗力と、破砕によって新しい表面が生まれる作用とのバランスをもとに「固体キャピラリー数(Cas)」という指標を新たに導入し、食品の力学的性質と食塊のレオロジー(流動・変形特性)との関係を解釈する試みを行っています。

Casとパラメータ(Ks′・Ks″)との関係を調べたところ、単純な比例関係ではなく、Casが小さい範囲では値が増加し、Casが大きい範囲では逆に減少するという、山型の非単調な傾向が見られました。興味深いことに、ゼラチンと寒天は力学的な性質や壊れ方が異なるにもかかわらず、このCasを用いて整理すると、両者はおおむね共通した関係に従うことが示されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ゼラチンと寒天という2種類のモデルゲルを対象にした基礎的な検討であり、実際の多様な食品全般に直ちに当てはまるかどうかは今後の検証が必要です。研究グループは、レオロジーのパラメータ、破砕係数、そしてCasを組み合わせることが、食品の力学的性質・噛み砕きの挙動・食塊の性質の関係を特徴づける一つの有望なアプローチになりうると述べています。この研究は東北大学大学院農学研究科の研究グループによって行われたものであり、日本の大学の研究成果として今回のフード・ハイドロコロイズ誌に発表される予定です。

まとめ

今回の研究は、固形食品が咀嚼によって食塊へと変化する過程を、弾性・粘性・破砕のしやすさといった観点から数式的に整理しようとする試みです。ゼラチンと寒天という異なる性質のゲルが、Casという共通の指標のもとでは似た傾向を示した点は注目されますが、これは一つの研究による知見であり、結論が確定したわけではありません。今後さらに幅広い食品を対象とした検討が進むことが期待されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiamin Yang, Yuri Ebisawa, Riona Miyamoto, et al. Rheological properties of the concentrated solid–liquid dispersion systems. フード・ハイドロコロイズ (2026). DOI: 10.1016/j.foodhyd.2026.113197. 原著ライセンス: cc-by.