エビ養殖は世界の水産物供給の重要な一角を担っていますが、感染症の流行はその持続可能性を脅かす大きな課題です。なかでも「急性肝膵臓壊死症(AHPND)」は、Vibrio parahaemolyticus(ビブリオ・パラヘモリティカス)という細菌がつくるPirAB vpという毒素によって引き起こされる、エビ養殖業にとって特に深刻な細菌性疾患として知られています。今回紹介する研究では、ロズマリン酸やフラボノイドを豊富に含む植物由来の飼料添加物であるシソ(Perilla frutescens)の粉末に着目し、このAHPNDに対するウシエビ(Penaeus monodon)の防御力を高められるかどうかが調べられました。
研究でわかったこと
研究チームは、ウシエビにシソ粉末を0.5%または1%の割合で混ぜた餌を14日間与えたうえで、AHPNDを引き起こすV. parahaemolyticus株に感染させるという実験を行いました。その結果、シソ粉末を与えられたエビでは、死亡率、体内の細菌量、そしてPirAB vp毒素の量がいずれも減少したと報告されています。
特に1%のシソ粉末を与えられたグループでは、免疫や抗酸化に関わる反応の向上がみられ、具体的には防御反応に関わるプロフェノールオキシダーゼ(proPO)系の活性化、抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼの活性上昇、活性酸素種の調節改善などが確認されたとされています。また、組織を調べた病理学的な解析では、感染後の組織損傷が軽減されていたことも示されています。
さらに興味深い点として、エビの胃の中に生息する細菌叢(微生物の集まり)にも変化がみられたことが挙げられます。シソ粉末を与えられたエビでは、Vibrio(ビブリオ属)を含むVibrionaceae(ビブリオ科)の細菌が減少する一方、Flavobacteriaceae(フラボバクテリウム科)やPseudoalteromonadaceae(シュードアルテロモナス科)といった、有益とされる細菌群が増加する傾向が確認されたと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、シソ粉末という植物由来の飼料添加物が、ウシエビの免疫・抗酸化応答を高め、胃内細菌叢のバランスを変化させ、AHPNDに伴う組織への悪影響を軽減する可能性を示唆するものです。ただし、これは特定の条件下でウシエビとV. parahaemolyticusを用いて行われた一つの研究であり、その結果がすべての養殖環境や他の病原体、他のエビ種にそのまま当てはまるとは限りません。また、この研究はあくまでエビを対象としたものであり、人の健康効果について述べたものではない点にも注意が必要です。
まとめ
今回の研究では、ロズマリン酸やフラボノイドを含むシソ粉末を餌に加えることで、ウシエビのAHPNDに対する抵抗性に関わる複数の指標——死亡率、菌数、毒素量、免疫・抗酸化反応、組織の状態、胃内細菌叢のバランス——に望ましい方向の変化がみられたことが報告されています。研究チームは、これらの結果がエビ養殖における持続可能な機能性飼料戦略としての可能性を支持するものだとしていますが、今後さらなる研究の蓄積が期待される分野だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食餌性シソ(Perilla frutescens)がウシエビ(Penaeus monodon)の宿主防御を調節し、急性肝膵臓壊死症(AHPND)に対する胃内細菌叢を再構築する(エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード・2026年08月)