養殖現場では、エビの成長を助け、病気に負けない体をつくることが大きな課題になっています。そのカギを握るとされているのが「腸内環境」です。人の腸内環境と同じように、エビの腸内にすむ微生物やその代謝産物が、成長や免疫力に深く関わっていると考えられています。

なかでも注目されているのが「酪酸」という物質です。酪酸は腸内細菌が作り出す代謝産物のひとつで、腸の細胞にとって主要なエネルギー源になるとともに、腸の健康を整える働きがあるとされています。ただし酪酸には化学的な形の違いがいくつかあり、モノブチリン、トリブチリン、酪酸ナトリウム、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸(PHB)など複数の種類が存在します。これらをエビの養殖に使う研究はまだ限られていることから、今回の研究では、どのタイプの酪酸がエビにとってより効果的なのかを比較検証しています。

研究でわかったこと

この研究では、ウシエビ(Penaeus monodon)に対して、4種類の酪酸(モノブチリン、トリブチリン、酪酸ナトリウム、PHB)をそれぞれ1%配合した餌を56日間与え、その後48時間にわたって急性の亜硝酸ストレスを負荷するという実験が行われました。亜硝酸は養殖環境で問題になりやすいストレス要因のひとつです。

その結果、4種類の酪酸はいずれも、対照群と比べて増体率(体重の増え方)を25%以上高め、亜硝酸ストレス下での生存率も28%以上改善したと報告されています。また、腸の粘膜の状態を保つ働きや、腸内の抗酸化力・免疫力を高める働きも見られたとされ、これには「Nrf2」と呼ばれる経路の活性化や、免疫に関わる遺伝子の発現上昇が関与している可能性が示唆されています。

具体的には、抗酸化能力に関わるT-AOCやSODという酵素の活性、およびNrf2・GPx・Trx・ALF・Pen3・serPといった遺伝子の発現が、4種類すべての酪酸グループで有意に上昇し、酸化ストレスの指標とされるMDA(過酸化脂質の分解産物)の量は有意に減少したとされています。一方で、LPO量やCAT・ASCといった酵素の活性、HO1・SOD・Crus・proPOといった遺伝子の発現については、酪酸の種類によって変化のしかたに違いが見られたと報告されています。

さらに、腸内細菌の構成についても4種類すべての酪酸によって変化が見られ、病原性を持つビブリオ属菌が減少する一方、有用な菌とされるロドバクター科(Rhodobacteraceae)などが増加したことが示されています。

これらを総合し、この研究の実験条件下では、酪酸による効果の総合的な高さはトリブチリン、PHB、モノブチリン、酪酸ナトリウムの順であったとまとめられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ウシエビという特定のエビの種類を対象に、決められた期間・条件のもとで行われた一つの研究です。ここで得られた結果が、他のエビの種類や、異なる飼育環境・配合量においても同じように当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、酪酸の摂取によって特定の病気が予防される、あるいは治癒するといったことを直接示すものではなく、あくまで腸内の状態やストレス耐性に関する指標の変化が報告されているものである点にも留意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、ウシエビに4種類の酪酸(モノブチリン、トリブチリン、酪酸ナトリウム、PHB)を与えたところ、いずれも成長や亜硝酸ストレスへの耐性を高め、腸内の抗酸化力・免疫関連遺伝子の発現、腸内細菌のバランスに良い方向の変化がもたらされたと報告されています。そのなかでも、トリブチリンが最も効果が高かったとされていますが、これは特定の飼育条件下での一研究の結果であり、今後さらに研究が積み重ねられていく分野だといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:モノブチリン、トリブチリン、酪酸ナトリウム、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸がウシエビ(Penaeus monodon)の成長、腸内健康、亜硝酸ストレス耐性に及ぼす効果の比較(アンチオキシダンツ・2026年07月)