著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、ナイジェリア、アメリカです。
掲載誌:BMC Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:砂糖入り飲料税をめぐる議論を読み解く
ナイジェリアでは2021年、財政法の成立により、砂糖入り飲料に1リットルあたり10ナイラの物品税が導入されました。砂糖を加えた清涼飲料などのとり過ぎを抑え、糖尿病や肥満といった生活習慣に関わる病気(非感染性疾患)を減らすことがねらいとされています。
著者らは、この税をめぐってメディア上で誰が、どのような論点や言葉づかいで議論しているかを調べました。中心となる問いは三つです。主な立場の人々が税をどう語っているか、報道でよく使われるテーマは何か、そして公衆衛生、経済、統治や世論といった論点が税の賛否にどう使われたか、です。著者らは、メディアの語り方は政策の採用や実施、市民の理解に大きく影響しうるにもかかわらず、ナイジェリアではこの点の分析が十分ではなかったと指摘しています。
何をどう調べたか
研究チームは、GoogleとBingを使って、2021年から2025年に出た英語の報道や論考を検索しました。ナイジェリア国内の新聞やテレビ、デジタルメディアを主な対象とし、世界的な議論との比較のために海外メディアの記事も一部加えています。同じニュースの重複掲載などを除き、最終的に30本の記事を読み込みました。
分析には二つの方法を組み合わせています。一つは、文章に繰り返し現れる話題を整理して分類する「テーマ分析」です。もう一つは、言葉の選び方や表現が読み手の受け止め方にどう働きかけるかを見る「談話分析」です。記事から読み取った主張や用語は、質的データ分析ソフトNVivoで「公衆衛生の訴え」「利益と経済の振興」「政策・統治」などのテーマや、「社会的な善」「危機を強調する言葉」「権威への言及」「事業崩壊の主張」といった語り方の分類に整理されました。
主な結果:立場によって異なる語り方
著者らによると、報道の中では五つの主要なテーマが見られ、とくに目立ったのは「公衆衛生の訴え」と「利益と経済の振興」でした。政策・統治や汚職、メディアそのものに関するテーマは比較的少なかったものの、目立つテーマと一緒に使われる形で現れていました。議論の中心にいたのは、公衆衛生を訴える市民団体などの推進派、飲料業界とその関係者、そして政府でした。
推進派の市民団体は、非感染性疾患の負担を示すデータを用い、税を「命を守るための道徳的な責務」として語っていました。強い感情や切迫感のこもった表現が使われ、税率の引き上げを求める際には世界保健機関(WHO)の勧告を根拠として挙げていました。あわせて、税の対象範囲の拡大や、税収を栄養や医療に充てることなども求めていたと報告されています。
一方、業界側は推進派の主張に反論し、自らの収益やイメージを守る語り方をしていました。肥満の原因は砂糖だけでなく運動不足や食生活全体にあるとして責任を他の要因に向けたり、製造業全体の成長率の低下や失業率の予測を引き合いに出して経済への打撃を警告したりしていました。ただし著者らは、こうした数字が砂糖入り飲料メーカーに直接結びつくものではなかった点を指摘しています。また、推進派が経済に触れる場合は、医療費の削減や国全体の生産性といった「国全体の利益」として語っており、業界の防衛的な主張とは対照的だったとしています。
政府の発言は、政策への署名や実施について述べる中立的なものが中心で、健康問題を導入の主な理由として挙げつつ、業界を非難することはありませんでした。メディアの報道も全体としては中立的で、WHOの勧告やメキシコ、チリなど他国の例を伝え、税率や価格に対する需要の反応といった制度の技術的な側面に重点を置いていたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、同じ一つの税をめぐって、推進派は健康と命の問題として、業界は経済と雇用の問題として、政府とメディアは比較的中立な政策の話題として語っていたことを、ナイジェリアの報道から具体的に描き出しました。著者らは、こうした論点や語り方の整理が、この分野で活動する公衆衛生の推進者にとって役立つ手がかりになると位置づけ、メディアの状況をさらに分析するための土台になるとしています。
原著論文の著者・所属:Abayomi Tajudeen Sarumi(Business School (Science Policy Research Unit), University of Sussex, Brighton, UK; Corporate Accountability and Public Participation Africa, Abuja, Nigeria)、Opeyemi Ibitoye(Corporate Accountability and Public Participation Africa, Abuja, Nigeria; University of Ilorin, Ilorin, Nigeria)、Joy Amafah-Isaac(Global Health Advocacy Incubator, Abuja, Nigeria)、Abdulmumin Opeyemi Muhammed(Economics & Finance Department, Middle Tennessee State University, Murfreesboro, Tennessee, USA)、Abiodun Adebayo(Teesside University, Middlesbrough, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abayomi Tajudeen Sarumi, Opeyemi Ibitoye, Joy Amafah-Isaac, et al. Bittersweet: a multi-method qualitative analysis of Sugar-Sweetened Beverages (SSB) tax discussion in the Nigerian media. BMC Public Health 2026-08-03. DOI: 10.1186/s12889-026-28578-5. 原著ライセンス:CC BY.