この研究は、タイ、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Animals
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
牛乳は私たちの食卓に欠かせない食品ですが、その生産を支える乳牛の餌にはどれくらいのタンパク質が必要なのでしょうか。乳牛の飼料には大豆粕などタンパク質源となる原料が使われますが、タンパク質の給与量を減らすことができれば、飼料コストの削減や、家畜からの窒素排出を抑えることにもつながる可能性があります。一方で、タンパク質を減らしすぎると乳の生産性や乳質、さらには牛の健康状態に影響が出るのではないかという懸念もあります。今回紹介する研究では、泌乳中期のホルスタイン種の乳牛を対象に、飼料中の粗タンパク質(CP)含量を段階的に減らした場合に、乳の生産量や成分、抗酸化状態にどのような変化が現れるのかが調べられました。
研究でわかったこと
この研究では、6頭のホルスタイン種の乳牛を用い、粗タンパク質含量が17.40%(TMR17)、16.29%(TMR16)、15.18%(TMR15)となるよう調整した3種類の混合飼料(TMR)が、それぞれ28日間ずつ与えられました。タンパク質を減らす方法としては、大豆粕の一部をトウモロコシダストに置き換える「精密なタンパク質削減」という手法が用いられており、粗飼料の割合は乾物中40%で一定に保たれています。
その結果、乾物摂取量や血漿中の代謝物には飼料による違いは見られませんでした。一方で、乾物・有機物・粗タンパク質の見かけの消化率はタンパク質含量が下がるにつれて有意に低下し、酸性デタージェント繊維(ADF)の消化率にも低下傾向が認められました(p = 0.06)。実際の乳量、乳糖量、無脂固形分(SNF)量には有意な差はありませんでしたが、乳タンパク質の割合はタンパク質含量の低下に伴って直線的に減少したことが報告されています(p = 0.01)。また体重の変化にも低下傾向が見られ(p = 0.09)、体内に蓄えたエネルギーの動員が増えている可能性が示唆されていますが、体格スコアや直接的な代謝指標では確認されておらず、断定はされていません。
乳中尿素窒素(MUN)はタンパク質含量の低下とともに直線的に減少しており、これは窒素利用効率が改善した可能性を示すものとされています。抗酸化に関わる指標では、血漿中のスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)活性、GSH-Px活性、総抗酸化能には有意な変化が見られなかった一方、DPPHラジカル消去能はタンパク質含量が高いほど高くなる直線的な関係が認められました(p = 0.01)。つまり、タンパク質を減らすとこの抗酸化指標はむしろ低下する方向に働いたことになります。
乳の脂肪酸組成に関しては、最もタンパク質含量が低いTMR15区で一価不飽和脂肪酸(MUFA)の割合が有意に増加し、特にオレイン酸の増加が報告されています(p = 0.05)。一方で飽和脂肪酸の総量には変化が見られませんでした(p = 0.55)。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、6頭の乳牛を用いた比較的小規模な試験デザイン(反復3×3ラテン方格法)によるものであり、泌乳中期のホルスタイン種という限られた条件下での結果です。論文の著者らも、タンパク質給与量の削減は一価不飽和脂肪酸の割合や窒素利用効率の改善につながる一方で、乳タンパク質含量や血漿の抗酸化指標(DPPHラジカル消去能)の低下という形でトレードオフが生じることを指摘しています。体重変化に関する示唆についても、体格スコアなど他の指標では裏付けられておらず、慎重な解釈が必要とされています。この研究だけで乳牛の飼料設計における最適なタンパク質量が確定したわけではなく、一つの研究として今後さらなる検証が期待される段階だといえます。
まとめ
今回紹介した研究では、乳牛の飼料中の粗タンパク質含量を精密に減らすことで、乳中の一価不飽和脂肪酸(オレイン酸を含む)の割合や窒素利用効率が改善する可能性がある一方、乳タンパク質の割合や血漿の抗酸化指標(DPPHラジカル消去能)は低下する傾向が示されました。生産性・動物の健康・乳質のあいだにはトレードオフがあることが示唆されており、飼料設計を考えるうえで一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):泌乳中期乳牛における精密なタンパク質給与量削減が泌乳性能、乳脂肪酸プロファイル、抗酸化状態に及ぼす影響(アニマルズ・2026年08月)
著者:Tanakorn Damrongthai(School of Animal Technology and Innovation, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima 30000, Thailand)、Supreena Srisaikham(Faculty of Agricultural Technology, Burapha University, Sakaeo Campus, Sakaeo 27160, Thailand)、Chao Ban(Guizhou Testing Center for Livestock and Poultry Germplasm, Guiyang 550018, China)、Pipat Lounglawan(School of Animal Technology and Innovation, Institute of Agricultural Technology, Suranaree University of Technology, Nakhon Ratchasima 30000, Thailand)