著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
経験頼みの「炒り加減」を客観的に判定したい
麻の実(アサの成熟した果実を乾燥させたもの)は、中国の伝統的な食生活や養生の場で使われてきた食材です。よく流通しているのは、淡い黄色になるまで軽く炒った「炒り麻の実」です。著者らによると、加熱には苦みを和らげ風味を良くする働きがあります。
ただし、どこで炒るのをやめるかは、現在も主に作り手が見た目やにおいを経験で判断して決めています。基準があいまいで個人差も大きいため、市販品の見た目や風味にばらつきが出ていると研究チームは指摘しています。
そこで研究チームは、炒り加減を標準化された方法で客観的かつ迅速に見分ける仕組みを作ろうとしました。伝統的な加工では「色・におい・味」が出来具合の目安とされています。この考え方をもとに、カメラで測った色と、センサーで測ったにおいを組み合わせ、機械学習で判定する方法を検討しました。判定の根拠を説明できるようにすることも、目的の一つに含めています。
色とにおいを数値にして6種類の手法で比べる
材料には、中国の主要産地である山西、河南、黒竜江の3地域から集めた15ロットの麻の実を使いました。各ロットを180℃前後に保ったまま8分、15分、22分炒り、それぞれ「炒り不足」「適度」「炒りすぎ」の試料としました。未加熱の生の実と合わせて4段階になり、全体で180試料(各段階45試料)をそろえています。
色は、外光を遮った撮影箱の中で一定の照明のもとデジタルカメラで撮影し、画像を「Lab」という色の表し方で数値化しました。Lは明るさ、aは赤みと緑み、bは黄みと青みの度合いを示します。においは「電子鼻」で測りました。電子鼻は、反応する物質の種類が異なる10個のセンサーを並べた装置で、試料から出る揮発成分を信号として読み取ります。こうして1つの試料を、色の3項目とにおいの10項目、計13個の数値で表しました。
判定には、ロジスティック回帰、k近傍法、ナイーブベイズ、ランダムフォレスト、XGBoost、CatBoostという仕組みの異なる6種類の機械学習手法を用い、成績を比較しました。データの8割を学習と調整に使い、残り2割は学習に一切使わない「未知のテスト用」として取り分けて、最終的な判定精度を確かめています。あわせて、炒り具合の品質の目安として、脂肪油の総量と、種子に含まれる成分トリゴネリンの量も化学分析で測定しました。
色だけ、においだけでは不十分で、組み合わせると約9割を正しく判定
色の数値を見ると、明るさを示すL値は炒り始めに上がって8分で最も高くなり、その後は加熱が進むにつれて下がりました。黄みを示すb値は、いったん下がってから上昇しました。研究チームはこの変化を、加熱初期の水分の蒸発や油のにじみ出しと、その後の糖とアミノ酸が反応して褐色になる「メイラード反応」やカラメル化といった変化に結び付けて説明しています。
ただし、色の情報だけを従来の統計手法で分析すると、4段階をはっきり分けることはできませんでした。特に生の実と炒り不足の実は、色がかなり重なっていました。においの情報だけでも、4段階の試料の分布は大きく重なり、境界はあいまいでした。
一方、色とにおいを組み合わせて機械学習にかけると、6手法はいずれも良好な判別力を示しました。XGBoostでは、未知のテスト用データに対する正解率が約91.7%、判別の良さを0から1で示す指標(AUC、1に近いほど良い)が0.9835でした。ロジスティック回帰も正解率は同じで、AUCはわずかに高い0.9856でした。それでも研究チームは、色とにおいの複雑な関係を捉えやすいこと、4段階のどれでも偏りなく判定できること、判定根拠の解析と相性がよいことなどを総合して、XGBoostを最終的な判定手法に選びました。テスト用の各段階9試料のうち、XGBoostは炒り不足と炒りすぎをすべて正しく判定しました。適度に炒った試料は7つを正しく判定し、2つを炒り不足と誤りました。
著者らは、色は表面の焦げ具合を直接反映し、においは見た目では分からない内部の化学変化を捉えるとしています。両者が互いの弱点を補うことで判定精度が高まったと考えています。
判定の決め手を見える化する
研究チームは、判定にどの項目がどれだけ効いたかを数値で示す「SHAP」という解析も行いました。その結果、色の項目(L、a、b)と、電子鼻のいくつかのセンサー(窒素酸化物に反応するW5S、硫黄を含む有機物に反応するW1W、メチル系の物質に反応するW1Sなど)が、判定の主な手がかりになっていました。
どの項目が重要になるかは段階ごとに異なりました。たとえば生の実を見分ける際には黄みを示すb値の寄与が46.8%を占め、炒り不足の実ではW5Sセンサーの寄与が18.4%でした。著者らは、これらのセンサーの反応が、メイラード反応や脂質の酸化、成分の熱分解で生じる揮発成分を反映している可能性があると考察しています。ただしこの対応は推定であり、確定した説明ではないという位置づけです。
この研究は、180試料という比較的小規模なデータで、色とにおいの組み合わせによって炒り麻の実の炒り加減を高い精度で判定できることを示しました。さらに、判定の根拠をある程度説明できる形にしています。経験に頼ってきた炒り加減の見極めを、数値と根拠に基づいて判断する方法の一例として、著者らは同様の加工食材の研究にとって方法上の参考になるとしています。
原著論文の著者・所属:Kaiwen Chen(Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Hao Zhang(Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Ge Tian(Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Jinjuan Wu(Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Tulin Lu(Department of Pharmacy, Nanjing University of Traditional Chinese Medicine, Nanjing 230012, China)、De Ji(Department of Pharmacy, Nanjing University of Traditional Chinese Medicine, Nanjing 230012, China)、Chuanshan Jin(Anhui Province Key Laboratory of Traditional Chinese Medicine Decoction Pieces of New Manufacturing Technology, Hefei 230012, China; Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China; Heritage Base of TCM Processing Technology of NATCM, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Deling Wu(Bozhou Key Laboratory of Biosynthesis of Effective Components of Medicinal Plants, Bozhou University, Bozhou 236800, China; Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)、Xiaoli Wang(Anhui Province Key Laboratory of Traditional Chinese Medicine Decoction Pieces of New Manufacturing Technology, Hefei 230012, China; Department of Pharmacy, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China; Heritage Base of TCM Processing Technology of NATCM, Anhui University of Chinese Medicine, Hefei 230012, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kaiwen Chen, Hao Zhang, Ge Tian, et al. An Intelligent Identification Method for the Processing Degree of Stir-Fried Cannabis fructus Based on Multi-Source Information Fusion and Machine Learning. Foods 2026-08-12. DOI: 10.3390/foods15162817. 原著ライセンス:CC BY.