著者の所属・活動拠点の国は、中国、アメリカです。

掲載誌:Frontiers in Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ステビアは南米原産の植物で、その葉に含まれる「ステビオール配糖体(SGs)」という成分が砂糖の200〜450倍ともいわれる甘さを持つことから、低糖・無糖食品の甘味料として世界中で使われています。しかし実際には、苦み、甘さの後引き、甘草(リコリス)のような独特の後味、飲み物や食品にしたときの物足りない口当たりなど、砂糖を単純に置き換えるだけでは解決できない課題が知られています。今回紹介する研究は、こうしたステビア由来甘味料について、味を感じる仕組みから食品への応用、健康への影響、安全性の評価までを幅広く整理した総説(レビュー論文)です。中国・長春中医薬大学などに所属する研究者らによってまとめられ、フロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に2026年8月に掲載予定です。

どのように調べたのか

この研究は新たな実験を行ったものではなく、これまでに発表された論文や公的な資料を集めて整理した「ナラティブレビュー」と呼ばれる形式です。Web of ScienceやPubMedなどの主要な文献データベースに加え、世界保健機関(WHO)、FAOとWHOの合同食品添加物専門家委員会(JECFA)、米国食品医薬品局(FDA)、欧州食品安全機関(EFSA)、中国の食品安全基準といった規制機関の資料も対象に含め、データベース開設から2026年6月28日までの文献を検索しています。ステビアの植物としての基礎情報から、甘味・苦味を感じる受容体の仕組み、食品への応用技術、栄養・代謝に関する証拠、安全性評価まで、幅広いテーマで文献を集めて論じています。

甘さと苦さはどう決まるのか

研究では、人が甘さを感じる仕組みとして、舌の細胞にある「T1R2/T1R3」という受容体が中心的な役割を果たすことが説明されています。興味深いのは、ステビオシド(ステビオール配糖体の代表的な成分の一つ)が主にT1R2という部分に結合するのに対し、ブドウ糖やショ糖(砂糖)、人工甘味料のスクラロースはT1R2とT1R3の両方に結合するという違いです。この結合パターンの違いが、ステビア由来甘味料と砂糖とで甘さの感じ方や後味が異なる一因ではないかと論じられています。さらに、ステビオール配糖体は苦みを感じる受容体(hTAS2R4やhTAS2R14)にも作用することがあり、配糖体の鎖の長さや糖の付き方といった分子構造の細かな違いが、甘さと苦さのバランスを左右するとされています。

ステビオール配糖体にはステビオシド(STV)、レバウジオシドA(Reb A)、レバウジオシドD(Reb D)、レバウジオシドM(Reb M)など複数の種類があり、これらは同じ「ステビオール」という基本骨格を持ちながら、結合する糖の数や位置が異なることで甘さの強さや苦み・後味の出方が変わってきます。論文中の比較では、STVは砂糖の約250〜300倍、Reb Aは約250〜450倍の甘さを持つとされる一方、STVは苦みや甘草様の後味が目立ちやすく、Reb Aも高濃度では苦みや後味が残ることがあると整理されています。これに対しReb DやReb Mは、より砂糖に近い、すっきりとした甘さの質を持つ傾向があると述べられています。

おいしさを改善するための工夫

研究では、ステビア由来甘味料の弱点を補うための技術として、複数の配糖体を組み合わせる「ブレンド」、酵素を使って配糖体の構造を変える「酵素変換」、微生物を使う「発酵」、生体触媒、構造修飾、さらに食品の配合(マトリックス)自体を最適化する方法などが紹介されています。砂糖は甘さだけでなく、とろみや食感、焼き色をつける反応、発酵の材料になるなど食品科学的に多くの役割を担っているため、ステビアで甘さだけを置き換えても、食品全体の仕上がりを砂糖と同じにするのは容易ではないと指摘されています。

また、味を感じる仕組みは口の中だけにとどまりません。T1R2/T1R3受容体は消化管や膵臓のベータ細胞、脂肪組織にも存在し、栄養素の感知や血糖調整に関わる可能性があるとされています。動物や培養細胞を使った研究では、ステビオールや一部のステビオール配糖体が「TRPM5」というイオンチャネルの働きを強め、血糖に応じたインスリン分泌に関わる可能性が示されていますが、論文はこれがヒトでの血糖降下作用に直結する証拠ではないと明確に区別しており、今後の人での検証が必要な「仮説」段階の知見として扱うべきだと述べています。

栄養・健康面の評価と安全性

栄養・代謝面についてこの総説が示す整理は、ステビア由来甘味料が砂糖を置き換えることで糖分・エネルギー摂取量を減らす効果が主な役割であるというものです。血糖コントロール、体重管理、腸内環境、抗酸化作用、炎症、心血管代謝の健康への影響については、可能性が議論されているものの、ヒトを対象とした研究でのさらなる検証が必要な段階だと述べられています。安全性や各国・地域の規制状況についても章を設けて整理されていますが、要旨の範囲では、著者らは今後の研究として、実際の食品での官能特性の最適化、代謝や食事への影響を見るヒトでの長期研究、摂取量が多い集団や配慮が必要な集団での曝露評価を優先すべきだと結論づけています。

この研究を読むときの注意点

この論文はステビアそのものを対象にした新しい実験ではなく、既存の文献を集めて整理した総説である点に注意が必要です。血糖調整などの代謝面での作用については、動物実験や培養細胞での知見が中心であり、著者ら自身がヒトでの効果に直接当てはめることはできないと明記しています。ステビア由来甘味料が健康上どのような意味を持つかは、まだ研究の途上にあるテーマとして理解するのが適切です。

まとめ

ステビア由来のステビオール配糖体は、砂糖に比べて非常に強い甘さを持ちながらエネルギーをほとんど持たないという特長がある一方、苦みや後味、口当たりの違いといった感覚的な課題を抱えています。この総説は、配糖体の種類による違い、味を感じる分子の仕組み、食品加工での工夫、そして栄養・安全性に関する現状の証拠を横断的に整理したもので、著者らは今後、実際の食品での官能評価やヒトでの長期研究がさらに必要だとしています。

原著論文の著者・所属:Lisha Wang(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Tianying Chang(Collaboration Network of the China Center for Evidence-Based Traditional Chinese Medicine (On Probation))、賈文康(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Jiahui Chen(GCP Office, The Affiliated Hospital to Changchun University of Chinese Medicine)、Le Li(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Tianpeng Zhang(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Bo Wang(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Chenxuan Dong(College of Traditional Chinese Medicine, Changchun University of Chinese Medicine)、Yingzi Cui(Collaboration Network of the China Center for Evidence-Based Traditional Chinese Medicine (On Probation))、Xing Liao(Institute of Basic Research in Clinical Medicine, China Academy of Chinese Medical Sciences)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Lisha Wang, Tianying Chang, 賈文康, et al. Stevia-derived sweeteners in reduced-sugar foods: formulation strategies, sensory optimization, nutritional evidence, and safety perspectives. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1894194. 原著ライセンス: cc-by.