海外で暮らし始めると、食生活が大きく変わることがあります。これまで欧米諸国に留学した学生を対象に、こうした「食の文化変容」が望ましくない食習慣の変化につながり、栄養状態や健康に影響しうることが報告されてきました。一方で、近年はインドのような文化的に多様なアジアの国々でも国際留学生の受け入れが増えており、欧米とは異なる環境でどのような変化が起きるのかは、これまであまり調べられてきませんでした。今回紹介する研究は、インドの大学に通う国際留学生を対象に、移住前後での食行動や栄養摂取の変化を探ったものです。
どのように調査したのか
この研究は、インドの教育拠点であるプネー市内の複数の大学に在籍する国際留学生320人を対象に行われました。年齢や身長・体重などの基本情報に加え、食の文化変容に影響すると考えられる要因、食行動の変化、そして食品摂取頻度を尋ねる83項目の調査票を独自に作成・検証し、移住前と移住後の状況を振り返って回答してもらう形(レトロスペクティブな前後比較デザイン)で実施されました。得られた食品摂取頻度のデータは、専用ソフトウエア(DietCal)を用いて1日あたりの栄養素摂取量に換算され、統計解析には多項ロジスティック回帰分析やウィルコクソンの符号付き順位検定が用いられています。
調査でわかったこと
参加した留学生の平均年齢は22.5歳、平均身長は169.7cmでした。体重は移住前の平均65.2kgから移住後は67.0kgへ、BMI(体格指数)は22.58から23.18へと、いずれも増加が見られたと報告されています。
食行動の面では、移住後に欠食が増えたと回答した人が78.7%にのぼったほか、加工食品や調理済み食品の利用増加(50.3%)、外食の増加(50%)、食欲低下(47.5%)、食事をスナックで済ませることの増加(54%)、1回の食事量の減少(43%)、1日の食事回数が2回に減ったこと(40%)が報告されています。これらの食行動の変化は、年齢、性別、婚姻状況、生活水準、学歴、出身地域、そして食材購入時のヒンディー語運用能力と統計的に関連していたとされています。また、こうした変化に影響したと留学生自身が感じた要因としては、移住前からの食習慣、食材の入手可能性やアクセスのしやすさ、周囲の食環境、経済的な負担、社会文化的要因、宗教的要因、料理そのものに関する要因などが挙げられています。
食品摂取頻度については、牛肉・マトン・魚介類・卵・鶏肉、乳・乳製品、豆類、ナッツ・種実類、緑黄色野菜、果物といった食品群で、移住後に統計的に有意な減少が見られたと報告されています。これに伴い、栄養素摂取量でもタンパク質・鉄・カルシウム・ビタミンB12・亜鉛の摂取量減少が確認された一方、エネルギー・炭水化物・脂質の摂取量は増加しており、これが出身地域を問わず見られた体重増加とも関連していると考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、インドという特定の環境における留学生を対象とした探索的な調査であり、自己申告に基づく振り返り形式のデータであることから、記憶のあいまいさなどの影響を受けている可能性があります。論文の著者らも、今回の結果を踏まえて、より詳細な質的研究や、時間の経過を追跡する縦断的研究がさらに必要だと述べています。今回の結果だけで、留学生の食生活や健康への影響について結論が確定したわけではない点には留意が必要です。
まとめ
この研究では、インドで学ぶ国際留学生の間で、欠食や加工食品・外食の増加といった食行動の変化とともに、肉・魚・乳製品・野菜などの摂取頻度低下、そしてタンパク質や鉄、カルシウム、ビタミンB12、亜鉛といった栄養素の摂取減少が報告されました。一方でエネルギーや脂質の摂取は増え、体重増加も見られたとされています。著者らは、現地の栄養価の高い食品の摂取を promote する栄養教育・介入の重要性を指摘しており、海外で学ぶ学生の食生活支援を考えるうえで一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:インドにおける国際留学生の食の文化変容と栄養摂取:探索的異文化比較研究(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)