この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Interdisciplinary Journal of Religious and Multicultural Perspectives

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

著者らは、インドの家庭菜園(キッチンガーデン)を経済活動としてとらえ直す分析を行いました。家庭菜園とは、住まいの敷地や屋上、ベランダなどで野菜・果物・ハーブ・観賞用植物を育てる営みを指します。インドでは農村・都市を問わず古くから根づいた習慣ですが、論文はその経済的な側面が十分に研究されてこなかったと指摘します。

著者らによれば、これまでの研究は個別地域の事例に偏っており、国全体や州ごとをまとめて見渡す経済分析が不足していました。そこで本研究は、家庭菜園が家計の食費をどれだけ抑え、食料の安定確保や副収入にどうつながるのかを整理し、あわせて気候・文化・土地の広さ・行政の支援といった条件によって州ごとにどのような違いが生まれるのかを検討することを目的としています。

どのように検討したか

研究は、世界各地およびインド国内の先行研究を広く読み解いたうえで、州ごとの園芸生産の状況と各地の家庭菜園の特徴を照らし合わせる形で進められています。著者らはあらかじめ五つの仮説を立てました。家庭菜園は食費を減らすか、行政や制度の支援が手厚い州ほど経済的な効果が大きいか、都市の菜園は食料確保より有機野菜などの特定市場への貢献が大きいか、地域の多様性が異なる経済的成果を生むか、そして家庭菜園が持続可能な開発の指標と結びつくか、という問いです。

比較の対象として取り上げられたのは、ケーララ州、タミル・ナードゥ州、マハーラーシュトラ州、西ベンガル州、および北東部の州々(アッサム、マニプル、ナガランドなど)です。それぞれの2023〜24年の園芸生産額とあわせて、地域ごとの菜園の形態が整理されています。

報告された主な結果

著者らは、家庭菜園を営む世帯では月々の食費の15〜25%にあたる節約が報告されたとしています。この効果は、使える土地が広い農村部でより大きく現れ、都市部では節約幅は小さいものの、有機野菜の販売による収入がそれを補うと述べられています。

州ごとの違いも明確に示されました。ケーララ州では女性の自助グループ「クドゥンバシュリー」を中心とした共同型のキッチンガーデンが広がり、政策支援も手厚いこと。タミル・ナードゥ州では屋上・テラス菜園への補助金が都市住民の参加を後押ししていること。マハーラーシュトラ州では都市のベランダ菜園が有機農産物の小規模市場につながる一方、農村では野菜や果樹の栽培が中心であること。西ベンガル州では野菜・香辛料・薬用植物を組み合わせた伝統的な菜園が営まれていること。北東部では豊かな生物多様性を生かした多様な菜園が、自給と保全の双方を支えていることが挙げられています。

制度面については、ケーララ州、タミル・ナードゥ州、カルナータカ州のように行政の支援が強い州で経済的な効果がより大きく現れたと報告されています。種子や堆肥、屋上菜園用キットへの補助や啓発活動が参加を押し上げた、というのが著者らの見立てです。さらに論文は、家庭菜園が飢餓の解消、責任ある消費、気候変動への対応、ジェンダー平等といった持続可能な開発目標の複数の項目と結びつくと述べています。

この研究が示すこと

著者らは、インドの家庭菜園は単なる自給のための営みではなく、家計を支え地域社会を強くする分散型の食料生産のかたちだと結論づけています。同時に、州によって条件も成果も大きく異なるため、全国一律の方針ではなく地域の実情に合わせた取り組みが必要だと指摘します。

課題として残されているのは、都市部で規模を広げていく難しさ、余った収穫物を売る仕組みの整備、そして州ごとにばらつきのある政策の実施状況です。身近な庭先やベランダの営みを経済の言葉で測り直すことが、政策を考えるうえで欠かせない土台になる──この研究はそのことを示しています。

著者:P Manikandan(PG & Research Department of Botany, Arulmigu Palaniandavar College of Arts and Culture, Didnidigul Main Road, Palani – 624 601, Tamil Nadu State, India)、P Arunachalam(Department of Economics, Government Arts College for Women, Yercadu Main Road, Salem – 636 008, Tamil Nadu State, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):P Manikandan, P Arunachalam. Economic Analysis of Household Gardening in India: Regional Perspectives. Interdisciplinary Journal of Religious and Multicultural Perspectives 2026-09-07. DOI: 10.18415/aqr49v29. 原著ライセンス:CC BY.