近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)を、構成する細菌の組み合わせパターンによっていくつかの「型(エンテロタイプ)」に分類できるという考え方が注目されています。エンテロタイプはもともと欧米の研究で提唱された概念ですが、日本人の腸内細菌叢も独自の集団パターンを形成し、欧米のエンテロタイプと共通する特徴も一部持つことが知られています。しかし、こうしたエンテロタイプと、日々の食習慣から摂取している栄養素との関係は、日本人においてはまだよくわかっていませんでした。今回紹介する研究は、この点に着目し、日本人成人を対象にエンテロタイプごとの栄養素・食品摂取の特徴を調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、地域に暮らす成人770名を対象にデータを収集しました。腸内細菌の情報は16S rRNA遺伝子という手法で解析され、その結果をもとに機械学習の一種であるサポートベクターマシンというモデルを用いて、参加者を5つのエンテロタイプ(タイプA〜E)に分類しました。あわせて、各参加者の食事内容や栄養素摂取量も調査し、エンテロタイプごとに違いがあるかどうかが検討されました。
さらに、どの栄養素や食品群がエンテロタイプと関連しやすいかを絞り込むために、XGBoostという機械学習モデルとSHAP(シャップ)と呼ばれる解釈手法が用いられ、その結果は線形判別分析という統計的な方法でさらに評価されました。
その結果、5つのエンテロタイプいずれにおいても、食物繊維の摂取が不足し、食塩の摂取が過剰である傾向が共通して見られました。また、タイプAは栄養素摂取の総合スコアが最も高く、逆にタイプCは最も低いという違いも示されました。栄養素摂取量や食品群摂取量そのものを予測する精度は限定的だったものの、SHAPで絞り込んだ特徴をもとにした線形判別分析では、エンテロタイプごとに部分的に重なりながらも異なる食事の特徴(シグナル)が見られたと報告されています。加えて、相関分析により、特定の腸内細菌のグループと、各エンテロタイプに特徴的な食事パターン(複数の栄養素や食品群の組み合わせを反映したもの)との関連も確認されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、日本人成人770名を対象とした一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。栄養素・食品群摂取の予測精度は「modest(控えめ)」と論文中で表現されており、エンテロタイプから食事内容を高い精度で言い当てられるわけではない点には注意が必要です。また、明らかになったのはあくまで集団レベルでの関連や特徴の傾向であり、特定の食品や栄養素が腸内細菌叢を改善する、あるいは健康効果をもたらすと断定するものではありません。論文では、これらの知見が今後、腸内細菌叢のタイプを考慮した食事戦略の開発に役立つ可能性がある、という位置づけで述べられています。
まとめ
今回の研究では、日本人成人のデータをもとに腸内細菌叢が5つのエンテロタイプに分類され、いずれのタイプでも食物繊維不足と食塩過剰という共通の傾向が見られる一方、タイプごとに異なる栄養素・食品摂取の特徴があることが示唆されました。腸内細菌叢と食事の関係はまだ研究が進行中の分野であり、今後さらに知見が蓄積されていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:日本人における腸内細菌エンテロタイプ別の栄養素摂取量の評価(ガット・マイクロバイオータ・レポーツ・2026年12月掲載予定)