ビタミンEやDHAを強化した卵は、すでにスーパーの棚でおなじみになりつつあります。これらは鶏の飼料に特定の栄養素を加えることで、卵の中にその成分を移行させる仕組みで作られています。今回紹介する研究では、玄米などに含まれる植物ステロールの一種「γ-オリザノール」を、新たな栄養強化卵の候補として調べています。γ-オリザノールは認知機能の改善効果が期待されている成分です。

研究グループはまず、市販されている鶏卵16種を分析しました。その結果、玄米中に最も多く含まれるγ-オリザノール成分「24-Methylenecycloartenyl ferulate(24MCA-FA)」そのものはあまり検出されなかった一方、その異性体(分子式は同じでも構造が異なる物質)が半数以上の卵から見つかりました。この24MCA-FAは、こめ油を製造する過程の酸処理によって異性化することが知られています。つまり、鶏の飼料に使われるこめ油に含まれる異性体がそのまま卵に移った可能性と、24MCA-FAがニワトリの体内、特に胃の中で異性化した可能性の両方が考えられました。

ニワトリの胃を模した実験で何がわかったか

この二つの可能性のうち、体内での異性化が起きているかを確かめるため、研究グループはニワトリの胃の中の環境を模した「人工胃液」を作り、24MCA-FAを反応させる実験を行いました。人工胃液は塩酸(濃度0.1~0.001M)、ウシ胆汁粉末、大豆油、大豆由来レシチンを組み合わせて調製し、ニワトリの直腸温度に相当する41.5℃で2時間反応させています。反応後の物質はクロロホルムとメタノールの混液で抽出し、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)という機器で異性体ができているかを分析しました。

まず、いくつかの有機溶媒中で塩酸を作用させたところ、塩酸濃度が高くなるほど24MCA-FAの異性体が増えることが確認されました。ところが、今回調製した人工胃液で同様に処理した場合には、異性化は確認されませんでした。この結果から、少なくとも今回の実験条件では、玄米由来のγ-オリザノールがニワトリの体内で異性化するという証拠は得られず、むしろこめ油の製造段階ですでにできていた異性体が、そのまま卵に移行した可能性のほうが有力ではないかと考察されています。

この研究の位置づけと今後の課題

研究グループ自身が述べているように、今回の人工胃液による実験はニワトリの体内環境を完全に再現できたわけではありません。そのため、体内での異性化が本当に起きていないと断定できる段階ではなく、今後は消化吸収の過程にさらに近づけた条件での検証が必要とされています。また、この異性体が健康や食品の性質にどのような影響を与えるのかも、現時点ではまだ明らかになっていません。

なお、この研究は日本国内の研究機関に所属する著者らによって進められています。

まとめ

この研究では、市販卵の分析からγ-オリザノールの異性体が卵に含まれている実態を確認したうえで、その由来がニワトリの体内での変化によるものか、飼料であるこめ油にもとから含まれていたものかを、人工胃液を使った実験で切り分けようとしました。今回の条件では体内での異性化は確認されず、こめ油由来である可能性が示唆されていますが、これは一つの研究段階の知見であり、結論が確定したわけではありません。今後の消化吸収を模した追加検証や、異性体自体の機能性解明が待たれます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Haruka Oikawa, Ayaka Iga, Megumi Hosokawa, et al. 異性化したγ-オリザノールが鶏卵に移行するメカニズムの探索. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_228.