この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Science & Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられる皮を、肉の酸化対策に使えるか
食品加工の現場では、皮や搾りかす、種などの副産物が大量に生じます。研究チームは、その中でもタマネギ(Allium cepa L.)の皮に注目しました。タマネギの皮は食用に向かず独特のにおいもあるため通常は廃棄されますが、可食部よりもケルセチンをはじめとするフラボノイドを多く含むことが知られています。フラボノイドやポリフェノールは、油脂などが酸素と反応して劣化する「酸化」を抑えるはたらきを持つ成分群です。
一方、食肉と食肉製品は水分が多く、不飽和脂肪酸やヘム鉄を含むため、微生物による腐敗にも酸化にも弱い食品です。酸化が進むと風味や色が損なわれ、日持ちが短くなります。これまではBHAやBHTといった合成酸化防止剤が使われてきましたが、著者らは、添加物を避けたいという消費者の要望の高まりを背景に、天然由来の代替材料が求められていると述べています。
そこで研究チームは、黄タマネギと赤タマネギ、2品種の皮から取り出した抽出物の粉末が、牛肉中の脂質酸化と色の変化をどの程度抑えるかを調べました。この研究の特徴は、ミートボールやソーセージのような実際の製品ではなく、香辛料や添加物を加えない「モデル系(単純化した試験用の肉)」を用いた点にあります。他の材料の影響を除くことで、タマネギの皮そのものの効果を見分けやすくする狙いです。
2品種の皮を乾かし、抽出し、牛肉に混ぜて7日間追跡
著者らは、地元で入手した赤タマネギと黄タマネギの皮を洗って40℃で24時間乾燥させ、粉砕してふるいにかけました。この粉を70%エタノールに24時間浸して成分を溶かし出し、ろ過・遠心分離したのち、エタノールを取り除いて凍結乾燥し、粉末状の抽出物としました。以下では赤タマネギ皮抽出物粉末をROEP、黄タマネギ皮抽出物粉末をYOEPと呼びます。
抽出物そのものについては、総フェノール量(ポリフェノール類の総量の指標)、DPPHラジカル捕捉能(試験管内で活性の高い分子を打ち消す力を測る指標)、および液体クロマトグラフィー・質量分析による個々のフェノール化合物の分析を行いました。
肉の試験では、脂と結合組織を取り除いた牛の頸部肉をひき肉にし、脱イオン水を10%加えたものを対照区(CONT)、そこにROEPまたはYOEPを0.4%加えたものを試験区としました。0.4%という濃度は、予備試験と既存文献をもとに、特に赤タマネギ皮抽出物で色や官能特性への影響が最も小さかった濃度として選ばれています。各区を25gずつトレーに取り、フィルムで包んで4℃・暗所で7日間保存し、0日目、2日目、4日目、7日目にpH、色(L*=明るさ、a*=赤み、b*=黄み)、脂質酸化の指標であるTBARS値、そして色素の酸化を示すメトミオグロビン(MetMb)の割合を測定しました。
報告された主な結果
抽出物の分析では、総フェノール量はROEPが28.91mg GA/g、YOEPが18.56mg GA/gで、赤タマネギの皮のほうが多いと報告されました。一方、DPPHラジカル捕捉能は両者とも90%を超えて高く、YOEPが95.60%、ROEPが92.38%と、総フェノール量の順位とは逆でした。著者らはこれを、抗酸化の効きめが総量だけでなく、含まれるフェノール化合物の構造や反応性にも左右されるためと説明しています。抽出収率は赤タマネギ皮が8.52%、黄タマネギ皮が4.98%でしたが、統計的な差は認められませんでした。成分分析では33種類のフェノール化合物を対象に調べ、両方の抽出物でタキシフォリンとケルセチンが主要成分であり、その量は赤タマネギ抽出物のほうが多いこと、フェノール酸ではプロトカテク酸が最も多く、プロトカテク酸とフェルラ酸は黄タマネギ抽出物に多いことが報告されました。エピカテキン、p-クマル酸、ビテキシンは赤タマネギ抽出物にのみ検出されています。
肉のpHは、いずれの区でも初期の約5.7から保存中に有意に上昇しました。著者らはこれを微生物の増加に伴う変化と関連づけています。7日目のpHはROEP区で6.39、対照区で6.63、YOEP区で6.59であり、ROEP区での上昇が最も緩やかでしたが、処理による差そのものは統計的に有意ではありませんでした。
色については、抽出物を加えた区はいずれも対照区より暗く、特にROEP区でL*値が最も低くなりました。a*値(赤み)は0日目の時点で対照区25.80、YOEP区24.44に対しROEP区は19.49と低く、著者らはこれを赤タマネギ皮抽出物の紫色の色素によるものと説明しています。7日目にもROEP区のa*値は他の2区より有意に低いままでしたが、著者らはこの赤みの低下は酸化が進んだためではなく、抽出物自体の色によると述べています。b*値(黄み)では、YOEP区がROEP区より有意に高く、抽出物の黄~橙色が肉の色調に表れたと報告されています。
酸化の指標では、色素の酸化を示すMetMbの割合が4日目に最大となり、対照区81.95%、YOEP区80.43%、ROEP区72.04%でした。脂質酸化の指標であるTBARS値は、両方の抽出物を加えた区で保存中の上昇が抑えられ、なかでもROEP区では7日後の値が0.57mg MA/kgと、初期の0.44mg MA/kgからの増加が最も小さいと報告されています。
この報告が示すこと
著者らは、廃棄されるタマネギの皮から得た抽出物が、余計な材料を含まない牛肉のモデル系において脂質酸化と色素の酸化の進行を遅らせたと報告しています。特に赤タマネギの皮の抽出物は、肉の色を紫がかった方向に変える一方で、脂質酸化を抑える効果が最も強く示されました。
この結果は、これまで処理費用のかかる廃棄物とみなされてきた食品加工の副産物を、食肉系の酸化安定性を高める天然素材として位置づけ直す可能性を示すものです。同時に、抽出物が持つ色そのものが製品の見た目に影響するため、抗酸化の効果と色の変化をどう両立させるかが、素材として扱ううえでの検討点であることも、この報告からうかがえます。
著者:Eda Demirok Soncu(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Ankara University , Ankara, 06830 ,)、Betül Karslıoğlu(Department of Gastronomy and Culinary Arts, Faculty of Tourism, Hasan Kalyoncu University , Gaziantep, 27000 ,)、Gülperi Sıla Bardakcı(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Ankara University , Ankara, 06830 ,)、Mine Güngörmüş(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Ankara University , Ankara, 06830 ,)、Ayşe Öz(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Ankara University , Ankara, 06830 ,)、Meryem Nur Vural(Department of Food Engineering, Faculty of Engineering, Ankara University , Ankara, 06830 ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eda Demirok Soncu, Betül Karslıoğlu, Gülperi Sıla Bardakcı, et al. Two Varieties of Onion Peel Extracts to Monitor Oxidation in Beef Model System. International Journal of Food Science & Technology 2026-09-07. DOI: 10.1093/ijfood/vvag195. 原著ライセンス:CC BY.