脂肪肝というと「お酒の飲みすぎ」というイメージを持つ人も多いかもしれませんが、近年は飲酒とは関係なく、肥満や糖尿病などの代謝異常に伴って肝臓に脂肪がたまる「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」が世界的に増えていることが知られています。MASLDは腸内細菌叢と肝臓の働きが密接に関わり合う「腸肝軸」の乱れとも関連が深いとされ、食事を通じて腸内細菌や体内の代謝を整えるアプローチに関心が寄せられています。今回紹介する研究では、乳製品に含まれる機能性脂肪酸である共役リノール酸(CLA)を強化した発酵乳が、MASLD患者の腸内細菌叢や血中の代謝物、そして肝臓の状態にどのような変化をもたらすのかが調べられました。
研究でわかったこと
この研究では、MASLDと診断された60名の患者を対象に、CLA強化発酵乳または通常のヨーグルトを120日間摂取してもらうランダム化比較試験が行われました。参加者の便サンプルは16S rRNA遺伝子解析により腸内細菌叢の構成が調べられ、血清サンプルは非標的型の液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)によるメタボロミクス解析にかけられました。あわせて、介入の前後で肝機能や代謝に関するさまざまな指標も測定されています。
その結果、CLA強化発酵乳を摂取したグループでは、血清中のALT(肝機能の指標となる酵素)、総コレステロール、クレアチニン、そして炎症マーカーである高感度CRPが有意に減少したと報告されています。腸内細菌叢については、Bacteroides属、Blautia属、Fusicatenibacter属といった菌の増加と、Enterococcus属やSutterella属の減少が確認されました。また、メタボロミクス解析では、エネルギー代謝に関わる経路の活性化がみられ、肝酵素の値とホスファチジルコリン類やアシルカルニチン類との間に負の関連があることも示されています。
さらにこの研究では、「因果媒介分析」という統計手法を用いて、介入・腸内細菌・代謝物・臨床的な改善がどのようにつながっているのかを探る試みも行われました。その結果、Lachnospiraceae UCG-008という腸内細菌や、5-ベンジルアシクロウリジンおよびバクセン酸といった代謝物が、CLA強化発酵乳の摂取と臨床的な改善を結びつける鍵となる媒介因子として同定されたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、腸内細菌叢の変化や血中代謝物の変動と、肝機能・炎症マーカーの改善との関連を、統計的な因果媒介分析という手法を使って探索的に検討したものです。特定の菌や代謝物が「原因」として作用したと完全に証明されたわけではなく、あくまで統計モデル上でそうした関連性が見出されたという段階の知見であることに留意する必要があります。また、これは一つの研究であり、対象人数や期間も限られているため、結論が確定したものではありません。CLA強化発酵乳の効果や仕組みについて、今後さらなる研究による検証が期待される段階だと言えるでしょう。
まとめ
今回紹介した研究では、CLAを強化した発酵乳を120日間摂取したMASLD患者において、肝機能や炎症に関わる血液マーカーの改善とともに、腸内細菌叢の構成変化や血中代謝物の変動が確認されたと報告されています。研究チームは、マルチオミクス解析と因果媒介分析を組み合わせることで、食事が腸内細菌や代謝物を介して宿主の健康にどう影響しうるかを解明する手がかりになるとしています。今後の研究の広がりに注目したいテーマです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:共役リノール酸強化発酵乳は腸内細菌叢と代謝物を調整しMASLDを改善する:マルチオミクスと因果媒介分析からの知見(フードフロンティアズ・2026年09月掲載予定)