著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Sehat Rakyat Jurnal Kesehatan Masyarakat
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
インドネシアの農村では、地面を掘って作る「掘り井戸」の水を、飲み水や料理、生活用水に使う家庭が多くあります。掘り井戸は自分たちで簡単に安く作れる一方、周囲の汚れが染み込みやすく、細菌に汚染されやすいことが知られています。
特に問題となるのが大腸菌(Escherichia coli)です。大腸菌は人や動物の腸の中にいる細菌で、水から見つかれば、その水がふん便で汚れている目安になります。論文によると、インドネシア保健省の基準では、生活用水に含まれる大腸菌はゼロであることが求められています。
研究チームは、井戸の多くを掘り井戸に頼っている同国のカランガニャル村(サンデン郡)を対象に、井戸水に大腸菌がいるかどうかを調べました。あわせて、井戸と浄化槽(セプティックタンク)との距離が汚染の程度に関係するのか、そして水を煮沸すると細菌がどれだけ減るのかを検討しました。
何をどう調べたか
著者らは2026年4月、村の掘り井戸14か所から水を採取しました。浄化槽からの距離が10メートル未満の井戸7か所と、10メートルを超える井戸7か所です。いずれも、ふたがしっかり閉まらない井戸が選ばれました。研究チームは、それぞれの井戸水を煮沸する前と、100℃の沸点まで加熱した後とで比べました。煮沸の条件をそろえるため、すべての加熱作業は研究者自身が同じ方法で行いました。
細菌の量は「MPN法(最確数法)」で見積もりました。これは、量を変えて試験管に入れた水のうち、細菌が増えた本数から、100ミリリットルあたりの細菌数を統計的に推定する方法です。検査は3段階で進められました。まず乳糖を含む培地で、大腸菌の仲間がいそうかどうかをふるい分けます。次に、より選択性の高い培地で確認します。最後に、大腸菌が金属のような緑色の光沢を示す培地で、本当に大腸菌かどうかを見分けました。
主な結果
煮沸前の段階では、浄化槽から10メートル未満の井戸7か所のうち6か所で大腸菌が見つかりました。10メートルを超える井戸では7か所すべてで見つかりました。論文は、浄化槽からの物理的な距離と汚染の程度との間に、統計的に意味のある関係は見られなかったと報告しています。
著者らはその理由として、井戸の作りや周りの衛生状態の影響を挙げています。具体的には、ふたが密閉されていないこと、近くにごみの山や家畜小屋、川があることなどです。距離が近いのに大腸菌が見つからなかった1か所については、壁が水を通しにくいなど、井戸の構造による守りが効いていた可能性を示しています。
煮沸前と煮沸後を比べた統計検定では、煮沸後に細菌の量がはっきり少なくなっていました。差は統計的に有意でした。煮沸後、14か所のうち7か所の水は大腸菌が「100ミリリットルあたり0」となり、飲み水の基準を満たしました。一方、残りの7か所では、煮沸後も大腸菌が検出されました。著者らは、細菌が熱に強く変化したためではないと考えています。理由として挙げているのは、器具の滅菌や作業手順、加熱の温度や時間が十分でなかった可能性といった技術的・衛生的な要因です。
研究が示すこと
この研究は、ふたが十分でない掘り井戸では、浄化槽から10メートル以上離れていても大腸菌汚染が起こりうることを示しました。距離だけでなく、井戸の構造や周りの衛生状態が水の質を左右すると、著者らは結論づけています。また、正しく煮沸すれば汚染を大きく減らせる一方、煮沸後にも細菌が残った試料があったことから、加熱の仕方やその後の扱いを衛生的に保つことの大切さも示されています。
原著論文の著者・所属:Duwi Yuliana Arini(Universitas Aisyiyah Yogyakarta)、Wiwit Probowati(Universitas Aisyiyah Yogyakarta)、Widaninggar Rahma Putri(Universitas Aisyiyah Yogyakarta)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Duwi Yuliana Arini, Wiwit Probowati, Widaninggar Rahma Putri. Analisis Tingkat Kontaminasi Bakteri Escherichia Coli pada Air Sumur Gali pada Tahap Sebelum dan Sesudah Perebusan. Sehat Rakyat Jurnal Kesehatan Masyarakat 2026-08-07. DOI: 10.54259/sehatrakyat.v5i3.7919. 原著ライセンス:CC BY.