著者の所属・活動拠点の国は、スイス、中国です。
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
植物は、虫に食べられた近隣の植物が放つ揮発性物質を受け取り、防御反応を起こすことがあります。しかし、傷ついた植物と、その物質を受け取る無傷の植物で、反応がどのような時間差で進むかは十分に分かっていませんでした。
研究チームはトウモロコシを使い、傷ついた株と無傷の株が、防御に関わる揮発性物質を放出するまでの時間を比較しました。さらに、その時間差を生む仕組みと、無傷の株の反応を引き起こす物質を調べました。
何を、どのように調べたか
研究チームは、葉が3枚完全に展開した若いトウモロコシを用いました。物質を送り出す株と受け取る株を、それぞれ別のガラス容器に1株ずつ入れ、送り手から受け手へ空気が流れるように接続しました。送り手の葉には傷をつけ、昆虫の口から採取した分泌物を塗って食害を模擬しました。この処理を実験開始時、30分後、60分後に行い、受け手は傷つけずに保ちました。
空気中の揮発性物質を15分ごとに測り、放出の開始時刻やピークを比較しました。受け手の放出量は、2株をつないだ系の測定値から送り手だけの測定値を差し引いて求め、別の分析法や、炭素の目印を使って受け手が新しく作った物質を追う実験でも確かめました。
また、防御に関わる植物ホルモン、揮発性物質を作る遺伝子の働き、葉の内部に蓄積した物質、葉の表面で気体の出入りを担う気孔の開き具合を調べました。特定の揮発性物質を作れない変異体も送り手に使い、受け手の素早い反応に必要な物質を絞り込みました。
主な報告結果
傷ついた送り手は、処理後数分以内に、青葉のにおいの成分である「緑葉揮発性物質」を放出しました。受け手は、その一部を取り込みました。その後に放出されるインドールや各種テルペン類では、無傷の受け手のほうが送り手より15〜80分早く放出を始め、放出のピークも30分〜4時間早く迎えました。炭素の目印を使った実験でも、受け手自身が新しく作ったテルペンの一種が、送り手の同じ物質より早く放出されました。
この早さは、受け手の内部で防御反応や物質の生産が先に進んだためではありませんでした。防御ホルモンの増加、関連遺伝子の働き、葉の内部への揮発性物質の蓄積は、送り手と受け手でおおむね同じ速さで進みました。一方、送り手の傷ついた葉では15分以内に気孔が閉じ始め、45分後には気孔を通じた気体の通りやすさが50%以上低下しました。受け手の気孔は開いたままで、その後の低下も軽度でした。
緑葉揮発性物質を作れない変異体を送り手にすると、受け手では揮発性物質の放出が誘導されませんでした。反対に、緑葉揮発性物質の放出は保たれるものの、それ以外の誘導性の揮発性物質をほとんど放出しない変異体を使っても、受け手は素早く反応しました。著者らは、緑葉揮発性物質が、この初期反応を引き起こすために必要だと結論づけています。
この報告が示すこと
著者らは、植物間の揮発性物質を介した応答では、直接傷ついた株が常に先行するわけではなく、無傷の株は物質を外へ放出する段階で先行できると解釈しています。傷による気孔の閉鎖に強く制約されないことが、その有力な説明です。
ただし、気孔を操作する実験は、植物の生育や健康、揮発性物質の取り込みにも影響したため、気孔の閉鎖が放出の遅れを直接引き起こしたかどうかは確定できませんでした。今回の報告は、防御物質を作る速さだけでなく、それを葉の外へ放出できる状態も、植物間の応答のタイミングに関わることを示しています。
原著論文の著者・所属:Tristan M. Cofer(Institute of Plant Sciences, University of Bern)、Lingfei Hu(Hainan Institute, Zhejiang University; Institute of Plant Sciences, University of Bern)、Gaetan Glauser(Neuchâtel Platform of Analytical Chemistry, University of Neuchâtel)、Matthias Erb(Institute of Plant Sciences, University of Bern)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tristan M. Cofer, Lingfei Hu, Gaetan Glauser, et al. Rapid green leaf volatile sensing allows intact plants to release induced volatiles earlier than wounded emitters. Proceedings of the National Academy of Sciences 2026-10-28. DOI: 10.1073/pnas.2604047123. 原著ライセンス:CC BY.