中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、肝臓で分解されてケトン体という物質を生み出しやすい油として知られており、認知機能や身体機能の改善に役立つ可能性が報告されています。今回紹介する研究では、このMCTの微粒子をミルクタンパク質でコーティングすることで、腸での吸収が変わり、ケトン体産生への効果も変化するのではないか、という着想のもとで検証が行われました。油の粒子をタンパク質で包むという工夫が体内での反応にどう影響するのか、というシンプルながら興味深いテーマです。

研究でわかったこと

この研究は、健常な成人を対象に、ミルクタンパク質でコーティングしたMCT(コーティングMCT)と、コーティングを施していないMCT(未処理MCT)を比較する、ランダム化・二重盲検・クロスオーバー試験として実施されました。参加者はそれぞれ6gのコーティングMCTまたは未処理MCTを摂取し、その後6時間にわたって血中のケトン体濃度や中鎖脂肪酸の濃度、消化器症状が測定されました。

主要評価項目とされた「血中総ケトン体(TKB)の変化量の曲線下面積(AUC)」については、コーティングの有無による有意な差は見られませんでした。一方で、副次評価項目である「TKB、β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、オクタン酸それぞれの変化量の最大濃度」は、コーティングMCTのほうが未処理MCTよりも有意に高い値を示したとされています。また、TKBの濃度はオクタン酸の濃度と正の相関があったことも報告されています。消化器症状については、コーティングMCT・未処理MCTのいずれも軽度な症状が見られたものの、両者の間に有意な差はなかったとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで健常な成人男性を対象に、6gという単回摂取での短期的な血中変化を調べたものであり、長期的な摂取による影響や、健康上の効果を証明するものではありません。また、主要評価項目であるAUCには差がなかった一方、最大濃度など一部の副次評価項目でのみ有意な差が見られたという結果であり、結果の解釈には注意が必要です。論文では、コーティングMCTがケトン体産生効果を高める可能性があり、安全に摂取できることが示唆されるとしたうえで、新たなケトン産生を活用した治療戦略の開発につながることが期待される、とまとめられています。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意して読んでいただければと思います。

まとめ

ミルクタンパク質でMCTをコーティングするという工夫により、血中ケトン体の最大濃度が高まる可能性が示された一方、全体としてのケトン体産生量(AUC)には差が見られなかったという、興味深くもニュアンスのある結果が報告されました。消化器症状の面でも大きな違いはなく、安全性の観点からも注目される内容です。今後、さらなる研究の積み重ねによって、こうした工夫がどのように役立ちうるのかが明らかになっていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:健常男性におけるミルクタンパク質コート中鎖トリグリセリドのケトン産生効果:ランダム化二重盲検クロスオーバー試験(プロス・ワン・2026年08月)