著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
赤ワインや緑茶、大豆製品などに含まれる(ポリ)フェノールは、体内に入ると硫酸抱合という代謝反応を受けることが知られています。同じ食品を食べても人によって健康への影響の出方が違うことがありますが、その理由の一つとして代謝の個人差が関係しているのではないかと考えられてきました。しかし、その仕組みの詳細はこれまであまりよくわかっていませんでした。今回、イタリア・パルマ大学(University of Parma)食品薬学部のMarco Codeluppi氏らの研究グループが、この代謝の個人差を生み出す分子レベルの仕組みをコンピューター解析によって探った研究を発表しました。
SULT1A1という酵素と遺伝子の個人差に着目
今回の研究が注目したのは、(ポリ)フェノールの硫酸抱合に関わる酵素「SULT1A1」です。ヒトの遺伝子にはSNP(一塩基多型)と呼ばれるごくわずかな配列の違いが存在することがあり、SULT1A1遺伝子にも「F247L」というSNPが知られています。このSNPを持つタイプは「SULT1A1*5」と呼ばれる酵素(アロザイム)を作り出します。研究チームは、通常型の酵素とSULT1A1*5という変異型の酵素とで、(ポリ)フェノールの代謝のされ方に違いが生じるのかを検証しました。
方法としては、実際に人や細胞を使った実験ではなく、分子ドッキングと分子動力学シミュレーションを組み合わせた、複数段階からなる検証済みのコンピューター計算の手法が用いられました。具体的には、大豆イソフラボンや茶カテキンの代謝物など食事由来の(ポリ)フェノール20種類を対象に、それぞれの化合物が酵素にどのように結合するか、そしてその化合物が持つ水酸基が、硫酸抱合に必要な補因子であるPAPS(硫酸基を運ぶ分子)の硫酸基の方向をきちんと向いているかどうかを、コンピューター上で観察しました。この向きが適切であることが、効率よく硫酸抱合反応が進むための条件とされています。
化合物によって酵素タイプへの反応の仕方が異なる
解析の結果、調べた20種類の(ポリ)フェノールのうち複数の化合物は、通常型・変異型どちらの酵素にも安定して取り込まれることが確認され、これらについてはSNPの影響は限定的である可能性が示されました。一方で、ダイゼイン(daidzein)、イソウロリチンA(isourolithin A)、そしていくつかのγ-バレロラクトン誘導体については、酵素のタイプによって結合のされやすさに違いがみられ、SNPに応じた硫酸抱合の起こりやすさの差がある可能性が示唆されました。研究チームは、こうしたSNPの影響が化学的なグループ分け(サブクラス)とは関係なく、化合物ごとに個別に現れうるものであると述べています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、コンピューターシミュレーションによる解析であり、実際にヒトの体内や細胞を用いて硫酸抱合量を測定したものではありません。あくまで、遺伝子の個人差が(ポリ)フェノール代謝に影響しうる仕組みを説明するための、原理を示す土台となる研究(プルーフ・オブ・コンセプト)と位置づけられています。今回の結果は、なぜ同じ(ポリ)フェノールを含む食品を摂取しても、人によって代謝のされ方や体への影響の現れ方が異なりうるのかを理解するための手がかりを提供するものであり、特定の食品の健康効果を示したり保証したりするものではない点に注意が必要です。
まとめ
今回の研究では、SULT1A1という代謝酵素の遺伝子多型が、ダイゼインやイソウロリチンAなど一部の(ポリ)フェノールの硫酸抱合のされやすさに関わっている可能性が、コンピューター解析によって示されました。これは一つの研究による知見であり、今後さらなる検証が必要とされる段階のものですが、(ポリ)フェノールを含む食品への体の反応が人によって異なる理由を分子レベルで理解していくための、一つの手法と手がかりを示すものといえます。
著者:Marco Codeluppi(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Nicole Tosi(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Lorenzo Pedroni(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Florinda Perugino(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Nicola Luigi Bragazzi(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Letizia Bresciani(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Daniele Del Rio(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Pedro Mena(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)、Luca Dellafiora(Department of Food and Drug, University of Parma, Parma, Italy)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Marco Codeluppi, Nicole Tosi, Lorenzo Pedroni, et al. Computational analysis of SULT1A1 allozymes reveals potential mechanisms of inter-individual variability in (poly)phenol metabolism. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-65193-1.