加齢とともに気になり始める膝の痛みやこわばり。実はこうした症状の背景には、腸内細菌叢(腸内フローラ)が関わっている可能性が近年注目されています。今回紹介するのは、変形性膝関節症(OA)の予備群にあたる成人を対象に、特定の乳酸菌株を12週間摂取してもらい、膝の自覚症状や腸内細菌叢との関連を調べたランダム化比較試験です。腸と関節の意外なつながりを探る、興味深い研究内容です。

研究チームはまず、実験室で110種類の乳酸菌・ビフィズス菌株を対象に、炎症を起こさせた培養細胞(SW982細胞)における変形性関節症関連遺伝子の発現プロファイルを調べ、候補となる菌株を絞り込みました。その結果、選び出されたのが Ligilactobacillus salivarius SBT2687(LS2687)という菌株です。

研究でわかったこと

臨床試験は、レントゲン所見(Kellgren–Lawrence分類でグレード0または1)と自覚症状に基づいて選ばれた、膝OA予備群の日本人成人108人(年齢中央値52.0歳、女性65.7%)を対象に実施されました。参加者はLS2687を摂取するグループとプラセボ(偽薬)を摂取するグループに無作為に分けられ、二重盲検(本人にも研究者にもどちらを摂取しているか分からない状態)で12週間の摂取が行われました。主要な評価項目は、両膝の「痛み」「こわばり」「違和感」について、視覚的評価スケール(VAS)を用いて測定されました。

12週間後の結果を見ると、LS2687を摂取したグループはプラセボグループに比べて、VASスコアの改善幅が大きい傾向が示されました(痛み:−2.9 vs −1.7、こわばり:−3.6 vs −1.3、違和感:−3.8 vs −1.7、いずれも単純比較でP<0.05)。ただし、摂取開始時点の値の違いを調整した統計解析(ANCOVA)では、群間の差は統計学的に明確なものとは言えませんでした(P=0.14〜0.24)。つまり、単純な比較では差が見られたものの、より厳密な調整を行うと、その差がはっきりしたものとは言い切れない結果だったと報告されています。

一方、腸内細菌叢については明確な変化が確認されました。LS2687を摂取したグループでは、腸内に占める Lactobacillus salivarius という菌種の割合が、摂取前の3.63%から摂取後には35.49%へと大きく増加しており、この変化はグループ内・グループ間のいずれの比較でも統計学的に意味のある差として示されています。また、この12週間の介入を通じて、LS2687の摂取に関連する有害事象は確認されなかったとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、膝の自覚症状の改善において単純な比較では一定の傾向が見られたものの、統計学的な調整を行った解析では群間差が明確には示されなかった点に注意が必要です。研究チームは、LS2687の摂取が忍容性(副作用なく続けられるかどうか)の面では良好であったこと、そして膝OA予備群における腸内細菌叢を介したプロバイオティクスの可能性について新たな知見を提供するものだとしています。腸と膝の関連(gut-knee axis)は、膝OA予備群の症状管理を考えるうえで今後考慮すべき視点だと述べられています。この研究はあくまで一つの臨床試験であり、これによって特定の菌株摂取が膝の症状を改善する、と結論づけられたわけではない点には留意が必要です。

まとめ

今回の研究では、変形性膝関節症の予備群にあたる成人を対象に、実験室で選抜されたプロバイオティクス菌株LS2687を12週間摂取してもらったところ、膝の自覚症状のVASスコアに一定の変化の傾向が見られ、腸内でのLactobacillus salivarius比率が有意に増加したことが報告されています。統計的に厳密な調整を行った解析では群間差ははっきりと示されなかったものの、安全性の面では問題は見られなかったとされ、腸内細菌叢と膝の症状との関連という「腸-膝軸」の視点が今後の研究テーマとして示唆されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:変形性膝関節症予備群の成人における、ラボ選抜プロバイオティクス菌株Ligilactobacillus salivarius SBT2687の摂取と主観的膝症状および腸内細菌叢との関連:日本人を対象としたランダム化比較試験(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)