著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

循環型バイオエコノミーとは、生物資源を効率よく使い、廃棄物も資源として循環させる経済のあり方を指します。研究チームは、農業の技術革新を持続可能な開発の目標と結びつける手段として、この考え方に注目しました。

その中で著者らが取り上げたのが、遺伝子組換えやゲノム編集などのバイオテクノロジーを使った品種改良(バイオ育種)です。著者らによれば、バイオ育種は種子の質を高め、化学資材の使用を減らし、資源効率の高い循環型の農業システムをつくる道を開くものです。一方で中国では、規制の分断、知的財産保護の弱さ、社会の受け入れの低さが、研究成果を産業として広げる段階の妨げになっているといいます。

これまでの研究は技術開発や行政計画に重点を置くものが多く、持続可能なバイオ育種を支える制度の仕組みは体系的に検討されてこなかった、と著者らは指摘します。そこで本研究は、中国でバイオ育種を産業化するうえで制度面の何が障害になっているかを明らかにし、改革の道筋を示すことを目指しました。

どのように分析したか

本研究は、実験や統計ではなく、文献や制度を読み解く質的な政策分析です。土台にしたのは、法を固定した規則の集まりではなく、社会の価値を実現するための意思決定の過程ととらえる「ニューヘイブン学派」の法政策学です。著者らはこの学派の「五つの知的課題」に沿って議論を組み立てました。目標の明確化、動向の記述、条件の分析などを順に進める手法です。

さらに著者らは、技術革新、効率の飛躍、制度の適応、消費者からの反応が循環しながら互いに影響し合って進むという「共進化の循環」の枠組みを提案しました。従来の研究は、技術そのものか制度の一側面だけを扱う直線的なモデルが多く、技術・制度・社会のあいだのフィードバックを十分にとらえられていなかった、というのが著者らの問題意識です。

分析では中国のバイオ育種のバリューチェーン(研究開発から市場までの一連の流れ)を検討し、必要に応じて米国や欧州連合(EU)の規制モデルや産業化の道筋とも比べています。

主な報告結果

比較の中で論文は、EUの規制が厳しい方向に振れた経緯を紹介しています。2018年には欧州司法裁判所の判断により、外来DNAを含まないゲノム編集作物も原則として従来の遺伝子組換え作物と同じ扱いになりました。ただし2023年に欧州委員会が出した「新ゲノム技術」に関する法案は、従来の育種と同等とみなせる植物を厳しい規制の対象外とする案を含んでおり、著者らはこれを姿勢の緩和の兆しと位置づけています。

中国については、技術開発の面では国家主導の投資により多くの技術を蓄えてきたと論文は述べています。他方で市場への参入の面では、2010年から2020年にかけて主要作物のバイオセーフティ証明書の発行が長く停滞し、EUの慎重な姿勢に近い状態でした。研究開発は進むのに商業化は抑えられるという「非対称」な発展が、初期の中国バイオ育種産業の特徴だったと著者らはまとめています。

現在の中国の規制について著者らは、「どのような技術を使ったか」に着目する方式から「できた製品にどんな特性があるか」に着目する方式へ、緩やかに移行している途中だと分析しています。法律のうえでは技術に着目する考え方を維持しつつ、運用面では製品に着目するやり方を試すという、米国と欧州の中間的な仕組みだといいます。

そのうえで研究チームは、バリューチェーンに四つの主要な制度上のボトルネックがあると特定しました。研究開発の連携、バイオセーフティの審査承認、知的財産の管理、市場での受け入れです。具体的には、市場の需要と切り離された研究開発、長い審査、かみ合わない統治の仕組み、技術移転や知的財産保護の仕組みの不足、消費者の不信が、バイオ育種を循環型経済のモデルにうまく組み込む妨げになっていると報告しています。

提案された改革とその意味

こうした制約に対して著者らは、技術移転の仕組みを強化すること、バイオセーフティの規制制度を最適化すること、製品規制の効率を高めること、表示制度と啓発を通じて消費者の参加を広げることを、改革の道筋として提案しています。

表示については具体案も示されています。遺伝子組換えの含有率が一定の割合を超えた場合に表示を義務づける基準の導入が一つです。また、外来成分を含まないゲノム編集製品には任意表示とQRコードによる追跡の仕組みを組み合わせ、消費者が研究段階から流通までの情報を確認できるようにすることも提案しています。

結論として論文は、バイオ育種の技術の特徴に合い、循環型農業の目標とも整合する制度をつくって初めて、先端技術の環境面での効果を十分に引き出せると主張しています。技術の進歩だけでは不十分で、制度が技術と歩調を合わせて変わる必要がある。本研究は、この点を中国の事例に即して整理し、政策の方向を示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Yu Qin(Koguan School of Law, Shanghai Jiao Tong University; School of Law, Fujian Normal University)、Kezhen Su(School of Law, Fuzhou University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yu Qin, Kezhen Su. Enabling the circular bioeconomy: institutional mechanism design for sustainable development of bio-breeding in China. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-01. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1699913. 原著ライセンス:CC BY.