著者の所属・活動拠点の国は、ウクライナです。

掲載誌:Grani

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食べ方の文化と家族の結びつき

家族の絆を支えるものとしては、心理的・経済的な要因などがよく挙げられます。しかし、家族と一緒に料理し、一緒に食べるかどうか、食にまつわる家族の伝統があるかどうかといった点には、あまり目が向けられてきませんでした。著者は、ウクライナの社会学ではこの領域がまだ十分に研究されておらず、とくに食の文化と家族・夫婦関係の強さとの結びつきには大きな空白があると指摘しています。

そこでこの論文は、食の文化を、人々のあいだに共有された現実をつくる社会的な仕組みとして捉えます。そのうえで、食の文化が人の情緒的な安定や、家族・夫婦関係の強化にどう関わりうるのかを明らかにすることを目的としています。

何を調べたか:先行研究の整理と学生へのインタビュー

論文の中心は理論的な考察です。著者は、進化心理学者R・ダンバー、行動科学者K・ウーリーとA・フィッシュバック、食の歴史を書いたN・フレッチャーらの議論を手がかりにしています。そして、人と一緒に食べること(共食)が人類の進化の過程で果たした役割、個人と集団にもたらす利点、古代から近代までの宴の歴史などを整理しました。

議論の中で著者は、「ガストロノミー文化」と「食の文化」を区別することを提案しています。ガストロノミー文化は、主にプロの料理人の技や高級な料理に関わるもので、レストランなど家庭の外の場で表れやすいとされます。一方の食の文化は、主に「家庭のかまど」のまわりで営まれます。社会的な出来事と結びつき、食の「楽しみ」というよりも、食べることへの基本的な「必要」に関わるものと位置づけられています。著者自身は、この区別が唯一の答えではないとも断っています。

理論的な主張を裏づける材料として、著者は自身の実証研究の第1段階も紹介しています。2025年10〜11月に、ドニプロ市の19〜21歳の学生8人(女性5人、男性3人)を対象に、深層半構造化インタビューを行ったものです。これは、あらかじめ用意した質問を軸にしながら、相手の考えを掘り下げて聞いていく手法です。

主な報告内容

論文は先行研究をもとに、共食について次のように整理しています。共食は、感情のバランスを保ち、心理的な打たれ強さを高め、社会的な信頼を生み出し、建設的な人づきあいの手がかりにもなるとされます。紹介されているダンバーの分析によれば、人と一緒に食べる機会が多い人ほど、幸福感や生活満足度が高く、他者を信頼し、頼れる友人も多い傾向がありました。また、共食が親しさを生むという因果の向きも示されたといいます。

こうした働きは家族のような身近な場だけで見られるものではありません。権力者が大規模な宴を開いて人々の信頼や支持を集めた歴史のように、社会の上下関係をまたぐ場面にも及ぶと著者は述べています。ただし、共食が人を結びつける力が最もよく表れるのは、家族や友人など身近な人との食卓だという見方も紹介されています。

インタビューでは、多くの参加者が、一人で食べるより家族と食べるほうが好きだと答えました。ある参加者は、家族との食事を「一日の主な社会的な儀式」と表現し、出来事を話し合い、冗談を言い合い、家族の絆を強める時間だと語っています。また、世代を超えて料理を伝える習慣も語られました。ある参加者は、母親が自分の祖母のノート、つまり参加者にとっては会ったことのない曾祖母が残したノートを見ながら料理を作っていると話しています。家族のレシピ帳に料理の秘訣を書き残しているという参加者もいました。参加者たちはこうした習慣を、家族の記憶や家族とのつながりを感じさせるものとして肯定的に受け止めていました。

著者はこれらの回答を、家族の中で一緒に料理し食べることが、家庭全体の社会的な満足感と家族一人ひとりの情緒的な安らぎに良い影響を与え、家族・夫婦関係を強めるという理論的な見方を支持するものと位置づけています。

この研究が伝えること

論文は、一緒に食べるという日常的な行為を、人類の進化を理解する手がかりであると同時に、家族の暮らしの満足度や家族・夫婦の結びつきに関わる要素として捉え直しています。著者は、それがガストロノミー文化でも食の文化でも、共に料理し食べる営みは家族の記憶をつくり受け継ぐ一部となり、人の社会的なつながりを広げ、心の安らぎをもたらすと結論づけています。食卓を囲むことの意味を、栄養や味だけでなく、人と人との関係から考える視点を示した論考だといえます。

原著論文の著者・所属:Ніколенко, Вадим(Дніпровський національний університет імені Олеся Гончара (Дніпро, Україна))

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ніколенко, Вадим. Спільна їжа та її соціальні похідні: контекст родинних відносин. Grani 2026-08-14. DOI: . 原著ライセンス:CC BY.