豆乳やオーツミルクなど、植物由来の原料から作られる「プラントベースミルク」は近年、食の多様な選択肢として注目されています。こうした飲料は穀物・豆類・種実類などさまざまな原料から作られていますが、栄養価を高めたり、新しい機能性成分を食生活に取り入れたりするためには、原料の種類をさらに広げることが重要だと考えられています。今回紹介する研究では、中南米原産の樹木でありながら、これまで十分に活用されてこなかった「ネグレクテッド・アンダーユーティライズド種(NUS)」に分類されるムングバ(Pachira aquatica)という植物の種子に着目しました。
研究でわかったこと
研究チームは、ムングバの種子からプラントベースミルク(MPBM)を試作し、種子そのものと、そこから作られた飲料の両方について、物理化学的な性質、栄養成分、そして生理活性成分(体内で何らかの作用が期待される植物由来の成分)を調べました。具体的には、脂肪酸の組成、機能性成分の含有量、抗酸化活性(酸化を抑える働きの指標)が分析されています。
その結果、飲料への加工過程を経ることで脂質のバランスが改善する傾向が示されました。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比率は、種子の状態では約6対1だったのに対し、飲料になると約4対1に変化したと報告されています。一般に不飽和脂肪酸の割合が相対的に高まることは、脂質の質という観点で注目される変化とされています。
また、種子および飲料からは複数の生理活性成分が検出されました。抗酸化作用を持つとされるビタミンEの一種であるγ(ガンマ)-トコフェロールは、油中でそれぞれ331.6µg/gおよび390.9µg/g含まれていました。カロテノイドの一種であるルテインは種子で2.3µg/g(乾燥重量あたり)、飲料で0.17µg/mL、フェノール酸は種子で1188.1µg/g、飲料で43.9µg/mL、フラボノイドは種子で115.5µg/g、飲料で13.3µg/mLと報告されています。さらに、抗酸化能を測定する指標であるORAC(酸素ラジカル吸収能力)値は、種子で31.3µmol TE/g(乾燥重量あたり)、飲料で2.2µmol/mLであったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ムングバの種子とそれを原料とした飲料の成分を詳しく分析し、特徴を明らかにしたものであり、これらの成分を摂取することで健康にどのような影響があるかを人を対象に検証したものではありません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。論文では、こうした知見がムングバのような未利用種の価値を高め、食の多様化に貢献しうる可能性が示唆されている、とまとめられています。
まとめ
今回紹介した研究は、これまであまり利用されてこなかった植物であるムングバの種子を原料とした植物性ミルクを試作し、その栄養成分や機能性成分を科学的に分析したものです。加工によって脂質バランスが変化する傾向や、抗酸化作用に関わるとされる複数の成分が含まれていることが報告されており、今後、未利用資源を活用した食品開発を考えるうえでの基礎的な知見の一つといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:種子からプラントベースミルクへ:ムングバ(Pachira aquatica)とその派生飲料の栄養・生理活性成分特性評価(食品計測・特性評価誌・2026年08月)