この研究は、チェコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Reviews in Aquaculture
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
コイの養殖といえば人工飼料を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実は池の中には藻類や動物プランクトン、底生動物(ベントス)といった『天然の食べ物』が存在し、これらも魚の栄養源として重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、こうした天然食物のタンパク質やアミノ酸組成については、これまで情報が断片的にしか整理されてきませんでした。今回紹介する研究は、世界各地の淡水養魚池における天然食物網のタンパク質・必須アミノ酸組成について、1950年から2026年までに発表された30件の研究データを集めて整理し直したレビュー論文です。
藻類・動物プランクトン・底生動物でアミノ酸の質が違う?
研究チームは、藻類・動物プランクトン・底生動物という3つのグループについて、乾物重量あたりのタンパク質量と必須アミノ酸(IAA)の濃度を標準化した上で、コイ(Cyprinus carpio)の必要量の目安と比較しました。その結果、タンパク質の量・質ともに『動物プランクトン > 底生動物 > 藻類』という、食物連鎖の段階(栄養段階)に沿った傾向が見られたと報告されています。動物プランクトンや底生動物の必須アミノ酸組成は、コイの必要量の目安をおおむね満たすか上回っていた一方、藻類はそれを下回る場合があったとされています。
栄養段階が上がるほどアミノ酸が『濃縮』される
この研究ではさらに、生物がどの栄養段階に位置するかを示す『相対栄養段階(RTP)』という指標と、必須アミノ酸の濃度との関係を調べています。その結果、RTPが高くなるほど、すべての必須アミノ酸の濃度も高くなる傾向があり、食物連鎖を通じてアミノ酸の質が『上乗せ』されていくという考え方(トロフィック・アップグレーディング)を支持する結果になったとされています。中でもリジンはRTPとの関連が最も強く(決定係数R²=0.551)、コイが選ぶ天然の食べ物によって含有量が大きく変わりやすいアミノ酸であることが示唆されています。一方でメチオニンはRTPとの関連が最も弱く、栄養段階を通じて厳密にコントロールされているため、池の食物網の中で確保するのが最も難しい必須アミノ酸のひとつだと考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この論文は、これまで発表された30件の研究データをまとめて分析したレビュー研究であり、新たに水槽実験や飼育試験を行ったものではありません。そのため、示された傾向は既存データの範囲内での関連性を示すものであり、個々の養魚池で必ず同じ結果が得られると断定するものではない点に注意が必要です。研究チームは、こうした知見をもとに、補助飼料(人工飼料)のタンパク質設計においてはメチオニンを基準(分母)に据えた『理想的なタンパク質』の考え方を中心に据えるべきだと提案しています。多くの補助飼料原料はメチオニン不足をむしろ悪化させ、タンパク質の利用効率を損なう可能性があるためだとされています。
まとめ
今回のレビュー研究では、淡水養魚池の天然食物網において、動物プランクトンや底生動物が藻類よりも質の高いタンパク質・アミノ酸源となりうることや、栄養段階が上がるほどアミノ酸組成が向上する傾向、そしてメチオニンが特に確保しにくい必須アミノ酸であることが示されました。研究チームは、こうした天然食物網のアミノ酸情報を養魚池の精密な飼料設計に組み込むことで、養殖の効率性や環境負荷の低減につながる可能性があるとしています。今後、こうした知見が実際の養殖現場でどのように活用されていくのか、注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):世界の養魚池における天然食物網中のアミノ酸:池コイ養殖における精密タンパク質給餌への道筋(水産養殖レビュー誌・2026年08月)
著者:Md. Foysul Hossain(Faculty of Fisheries and Protection of Waters, South Bohemian Research Center of Aquaculture and Biodiversity of Hydrocenoses, Institute of Aquaculture and Protection of Waters University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)、Katerina Sezimova(Department of Animal Husbandry Sciences, Faculty of Agriculture and Technology University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)、Jan Mráz(Faculty of Fisheries and Protection of Waters, South Bohemian Research Center of Aquaculture and Biodiversity of Hydrocenoses, Institute of Aquaculture and Protection of Waters University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)、Radek Gebauer(Faculty of Fisheries and Protection of Waters, South Bohemian Research Center of Aquaculture and Biodiversity of Hydrocenoses, Institute of Aquaculture and Protection of Waters University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)、Ľuboš Zábranský(Department of Animal Husbandry Sciences, Faculty of Agriculture and Technology University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)、Koushik Roy(Faculty of Fisheries and Protection of Waters, South Bohemian Research Center of Aquaculture and Biodiversity of Hydrocenoses, Institute of Aquaculture and Protection of Waters University of South Bohemia in Ceske Budejovice České Budějovice Czech Republic)