この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:World Nutrition Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
米は多くの地域で日々のエネルギー源の中心を占め、インドネシアでも主食として大量に消費されています。ただし、広く食べられているのは精白された白米です。研究チームは、精米の工程でぬかや胚芽が取り除かれることにより食物繊維や生理活性成分が減り、血糖が上がりやすい性質(高いグリセミック指数)につながると説明しています。一方の玄米は全粒穀物として食物繊維やフェノール化合物を多く含むことから、炎症を抑える方向に働くのではないかと期待されてきました。
しかし著者らは、座りがちな生活を送る人々を対象にした玄米の検証はほとんど行われていないと指摘しています。世界保健機関の報告では18歳以上の成人の約27.5%が身体活動の少ない生活を送っており、インドネシアでも事務職など座位時間の長い働き方が広がっています。そこで本研究は、座位中心の勤労者が150gの玄米または白米を食べた後、炎症の指標であるインターロイキン6(IL-6)の値にどのような違いが生じるかを比較することを目的としました。IL-6は、免疫や代謝に関わり多様な働きを持つ物質で、食後の炎症反応を映す指標として用いられています。著者らによれば、食後の炎症反応はインスリン抵抗性や動脈硬化の背景にありうるため注目されています。
どのように調べたか
研究は、インドネシア大学医学部の事務職場で2024年8月から2025年5月にかけて行われた、並行群間・無作為割付・非盲検(どちらの米を食べるか参加者にも分かる形)の試験です。対象は21〜59歳、体格指数(BMI)が18.5〜22.9 kg/m²の標準体重で、身体活動が週600 MET・分以下と少ない事務職員でした。妊娠・授乳中の人、喫煙者、飲酒者、菜食者、食物アレルギーや糖尿病・心血管疾患・がんなどの慢性疾患がある人などは除外されています。30人が参加し、玄米群と白米群に割り付けられ、最終的に試験を完了した28人(女性22人、男性6人)のデータが解析されました。
参加者は10時間の絶食のうえで、米150gに加えて卵料理60g、豆腐の煮込み70g、水250mlからなる食事をとりました。白米はIR-64品種、玄米はAek Sibundong品種が使われています。食事の栄養価はソフトウェアで算出され、白米群の食事は515.2 kcal・炭水化物128.8g・たんぱく質27.1g・脂質12.8g、玄米群の食事は473.6 kcal・炭水化物118.4g・たんぱく質33.2g・脂質15.6gでした。玄米の脂質含有量(100gあたり2.4g)は製造元の分析報告から、白米(同0.5g)は公表されている成分データから採用されたと述べられています。
IL-6は、絶食後の朝と食後4時間の2回、静脈血から採取した血漿を用いてサンドイッチELISA法で測定されました。参加者は食後の採血まで座って過ごし、水以外は口にしませんでした。前日の食事は24時間思い出し法で、身体活動は国際標準化身体活動質問票の短縮版(IPAQ-SF)で記録されています。データの分布に応じて、群内の比較にはウィルコクソン検定、群間の比較にはマン・ホイットニー検定という、正規分布を前提としない統計手法が用いられました。
報告された主な結果
参加者全体の身体活動量は平均321.5±181.2 MET・分/週で、BMIの平均は20.9±1.2 kg/m²でした。年齢、性別、BMI、身体活動量、開始時のIL-6値のいずれについても、2群間に差は見られなかったと報告されています。前日の食事についても、エネルギーや各栄養素、食物繊維の摂取量に統計的に有意な差はありませんでした。
IL-6については、玄米群では食後の値が開始時より高い方向に動いたものの統計的に有意ではなく(p=0.087)、白米群ではわずかに下がったもののこちらも有意ではありませんでした(p=0.910)。2群間で変化量を比べても、有意差は認められませんでした(p=0.069)。ただし著者らは、玄米群で食後のIL-6の中央値が数値としては高かったと記しており、この点を「逆説的」な上昇として論文の題名にも掲げています。
この結果について著者らは、食事の脂質量など組成の違いが関係している可能性に触れつつ、それはあくまで推測であり、本研究の結果から直接導けるものではないと明記しています。また、IL-6は一般に食後6時間ごろに最大となるとされるため、4時間時点の測定はピークではなく食後炎症反応の初期段階を捉えたものかもしれないと述べています。限界としては、24時間思い出し法とIPAQ質問票に伴う思い出しの偏り、非盲検デザイン、試験食の栄養組成を直接分析ではなく既存のデータから推定した点が挙げられています。
この研究が示すこと
著者らは、総脂質量の少ない日常的な食事の中で玄米または白米を一度食べただけでは、健康で座位中心の人において食後4時間のIL-6値に有意な影響は見られなかったと結論づけています。食後の炎症反応は、米の種類だけでなく、脂質の総量、食品のマトリックス(食品全体としての構造や成分の組み合わせ)、その人の代謝状態といった複数の要因が絡み合う複雑な過程だというのが著者らの見方です。
そのうえで著者らは、炎症を抑えることを意図した食事の助言は、主食の種類だけに目を向けるのではなく、食生活全体や脂質摂取量、代謝状態を踏まえるべきだと述べています。玄米は食物繊維や生理活性成分を多く含むという特徴を持ちますが、一食単位での急性の抗炎症作用については、本研究の範囲では限られたものにとどまったという報告です。
著者:Rizqa Febriliany Putri(Faculty of Medicine, Universitas Indonesia–Dr. Cipto Mangunkusumo General Hospital, Jakarta, Indonesia)、Sri Widia A. Jusman(Faculty of Medicine, Universitas Indonesia, Jakarta, Indonesia)、Wiji Lestari(Faculty of Medicine, Universitas Indonesia – Dr. Cipto Mangunkusumo General Hospital, Jakarta, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rizqa Febriliany Putri, Sri Widia A. Jusman, Wiji Lestari. Paradoxical rise in interleukin-6 following brown rice intake: A postprandial study in sedentary workers. World Nutrition Journal 2026-08-31. DOI: 10.25220/wnj.v10.i1.0008. 原著ライセンス:CC BY.