著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:産地の環境が茶の原料葉に与える違いを調べる
お茶の味や香りのもとは、摘み取ったばかりの生葉に含まれる成分です。カテキン類、カフェイン、アミノ酸、糖などは苦味・渋味・うま味・甘味に関わります。揮発性の香気成分は、脂質の分解やカロテノイドの分解など、さまざまな経路から生まれます。生葉の性質は品種や製茶方法だけでなく、気温・湿度・降水・日射といった栽培環境の影響も受けると考えられています。
研究チームが対象にしたのは、花や果実のような香りを生みやすいことで知られる烏龍茶品種「奇蘭(Qilan)」です。これまでの研究は加工後の茶や製茶中の香りの変化に集中しており、異なる地域で育った奇蘭の生葉そのものの違いを体系的に調べた情報は限られていました。著者らは同じ品種を比べることで遺伝的な違いの影響を抑え、栽培地域に伴う生葉の品質の違いを明らかにしようとしました。
何をどう調べたか
比較したのは、福建省武夷山市と海南省白沙県の茶園で育った、樹齢13年の奇蘭です。標高はどちらも約220メートルとほぼ同じですが、緯度が大きく異なります。2025年10月、それぞれの茶園で「一芯二葉」(芽とその下の葉2枚)の新芽を摘み取りました。論文では武夷の試料を「2L-FQ」、白沙の試料を「2L-HQ」と呼んでいます。
研究チームは、両地点の気象データを比較しました。生葉については、葉の大きさ、水分、色、色素の量、味に関わる成分、抗酸化能、酵素の活性を測定しています。抗酸化能は、試験管内の化学的な測定で評価したものです。加えて、香りのもととなる揮発性成分を分離・検出するGC–IMS(ガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析)で香気の「指紋」を取りました。さらに、葉に含まれる多数の代謝物を網羅的に測るノンターゲット・メタボロミクスも行いました。両産地の生葉を同じ標準的な工程で紅茶にし、電子鼻・電子舌でも評価しています。
調査月の気象データでは、白沙のほうが平均気温・相対湿度・降水量が高く、日射量は低いという違いがありました。日射量は1日1平方メートルあたり11.44メガジュールで、武夷の13.28メガジュールより少なくなっています。著者らは、比較的涼しく明るい武夷と、より暖かく湿潤で日射の少ない白沙という対比を、両産地の主な環境の違いとして示しています。
主な結果:見た目から成分、香り、代謝まで広く違いが見られた
白沙の葉は武夷の葉より大きく、測定した葉の長さは7.89センチから10.05センチに、幅は3.40センチから4.38センチになっていました。水分含量(74.41%に対し76.75%)や水分活性も白沙のほうが高い値でした。葉の色は白沙のほうが暗く、色差は6.54でした。クロロフィル(葉緑素)とカロテノイドの量も白沙のほうが多いと報告されています。著者らは、白沙の降水量や湿度の高さ、日射の少なさなどとの関連を考察しています。
味に関わる成分では、白沙の生葉は武夷と比べて茶ポリフェノールが11.8%、水溶性多糖類が26.4%、カフェインが11.4%、遊離アミノ酸が10.6%多いという結果でした。カテキン類のうち、没食子酸が結合していないタイプ(カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、ガロカテキン)が白沙で有意に多くなっていました。3種類の抗酸化能の測定値も、白沙のほうが2.2〜6.1%高い値でした。
製茶中の変化に関わる酸化系の酵素では、大きな差が見られました。白沙の生葉ではリポキシゲナーゼの活性が137.0%、ポリフェノールオキシダーゼが98.0%、ペルオキシダーゼが93.8%高くなっていました。一方、香気成分の前駆体から香りを放出する働きを持つβ-グルコシダーゼの活性には差がありませんでした。
香気成分については、GC–IMSで61種類の揮発性化合物が検出されました。そのうち46種類で両産地の間に有意な差がありました。武夷の葉には芳香族アルデヒド、β-フェニルエタノール、果実様の香りを持つエステル類などが多く含まれていました。白沙の葉には一部のアルコール類、不飽和アルデヒド、フラン系化合物、脂質由来のエステル類が多く含まれていました。
網羅的な代謝物解析では4359の代謝物シグナル(特徴量)が得られ、そのうち4356は両産地に共通していました。統計的な基準で絞り込んだ結果、793の特徴量で差が見られました。白沙で多かったものが420、少なかったものが373です。これらは主に炭水化物、アミノ酸、フラボノイド関連、脂質、補酵素などの代謝に関係していました。なお、多くの化合物名は標準物質で確認したものではなく、推定に基づく帰属であると論文は断っています。
この研究が示すこと
同じ品種・ほぼ同じ標高の茶でも、栽培地域が異なると、生葉の形、水分、色素、味に関わる成分、抗酸化能、酸化酵素の活性、香気の組成、代謝のあり方がそろって異なっていました。著者らはこれを、地域ごとの栽培と関連した一連の違いとして報告しています。
研究チームは、これらのデータが、産地ごとの生葉の性質に合わせて奇蘭の加工方法を考えるための基礎資料になると位置づけています。
原著論文の著者・所属:Longbin Zhong(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China; Hainan University Research Development Office, Hainan University, Haikou 570228, China)、Chanyi Xie(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Mingchang Yang(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Yibo Hu(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Tianhang Huan(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Zhigang Guang(Hainan State Farms Tropical Products Industry Group Co., Ltd., Haikou 570226, China)、Xia Xie(Hainan University Research Development Office, Hainan University, Haikou 570228, China)、Yiyi Yin(Hainan University Research Development Office, Hainan University, Haikou 570228, China)、Haiming Chen(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Rongrong He(HNU-HSF Collaborative Innovation Laboratory, College of Food Sciences & Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Longbin Zhong, Chanyi Xie, Mingchang Yang, et al. Untargeted Metabolomics and GC–IMS Reveal Quality-Related Differences in Qilan Fresh Tea Leaves Grown in Wuyi and Baisha. Foods 2026-09-29. DOI: 10.3390/foods15193478. 原著ライセンス:CC BY.