掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

黒アロニア(Aronia melanocarpa)の果実は、アントシアニンをはじめとするポリフェノールを豊富に含む果実として知られています。アントシアニンは果実の濃い紫黒色をつくる色素成分で、酸化や分解を受けやすい性質があります。研究チームは、この「壊れやすさ」を逆手に取り、食品の鮮度や品質の変化を示す目印(マーカー)として使えるのではないかと考えました。

著者らは以前の研究で、アントシアニンが酸化されると、460ナノメートルの光を当てたときに波長520ナノメートル付近を中心とする新しい蛍光の帯(「酸化バンド」)が現れることを報告していました。本研究の目的は、この蛍光バンドが、アロニア果実を乾燥させる過程と、凍結乾燥品(フリーズドライ品)を保存する過程で起こるアントシアニンの酸化を見積もる指標として役立つかどうかを調べることです。

どのように調べたか

研究チームは、ポーランド南東部で栽培されたアロニア果実を用いました。乾燥のモデルとして、果実を60℃で加熱し、48時間から240時間まで段階的に試料を取り出しています。また別の果実は凍結乾燥し、その粉末を4℃、室温、37℃の各条件で空気にさらした状態で最長6週間保存し、1週間ごとに試料を取りました。

各時点で、総ポリフェノール量、アントシアニン量、二種類の方法(FRAP法とABTSラジカル消色法)による総抗酸化能を測定し、さらに液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた手法で個々のポリフェノール成分の量を追跡しました。蛍光は、果実や粉末といった固体のまま測る場合と、抽出液にして測る場合の両方で比較しています。加えて、酸化バンドの蛍光の高さを、アントシアニン本来の蛍光(約670ナノメートル)の高さで割った比(F1/F2)という指標も用いました。これは、新鮮な状態の値が分からない試料でも状態を判断しやすくするための工夫です。

報告された主な結果

加熱乾燥を長く続けるほど、総ポリフェノール量とアントシアニン量はともに減少し、その減り方はアントシアニンの方が大きかったと報告されています。抗酸化能の低下は総ポリフェノールの減少とほぼ同様でした。成分ごとの分析では、シアニジン類(アントシアニン)の減少がケルセチン類やフェノール酸よりも顕著で、しかももともと含有量の多い成分でも少ない成分でも同じように減っていました。著者らはこれを、分解に選択性がなくなっていることを示すものと述べています。

凍結乾燥品の保存では、温度による違いがはっきり出ました。4℃の保存ではアントシアニン量に一貫した減少は見られませんでしたが、22℃では進行的な減少が、37℃では著しい減少が認められました。抗酸化能についても同様の傾向で、4℃では低下せず、37℃で最も大きく低下しています。

肝心の蛍光については、抽出液で測った場合、乾燥時間が延びるにつれて酸化バンドの蛍光強度が規則的に増加しました。凍結乾燥品の抽出液でも、22℃保存では2週目から、37℃保存では1週目から蛍光の増加が見られ、4℃では有意な変化はありませんでした。F1/F2比も、乾燥果実の抽出液では規則的に増加しました。一方、果実そのものや粉末、凍結乾燥粉末を固体のまま測定した場合は、増加が見られるものの規則性に乏しく、結果のばらつきも大きくなりました。著者らはその理由として、固体試料では光の散乱の影響が大きく、表面の形状や不均一さによって測定値が左右されることを挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、アントシアニンの酸化にともなって現れる蛍光バンドが、アロニア果実の乾燥や凍結乾燥品の保存中に進む酸化の程度を、抽出液を用いれば簡便にとらえられる予備的な指標になりうることを示しました。とくに、酸化バンドと本来の蛍光の比をとるF1/F2という指標は、乾燥果実の抽出液において有望だと位置づけられています。他方で、試料を壊さずに固体のまま測るという、より扱いやすい形での応用には、測定方法の面でまだ課題が残ることも同時に明らかになりました。

著者らはまた、実際の取り扱いに関わる点として、アロニア果実の乾燥時間を必要最小限を超えて延ばさないこと、凍結乾燥品は空気にさらさず密閉して保存することを、この結果からの実践的な示唆として挙げています。

著者:Małgorzata Rak(Doctoral School University of Rzeszow Rzeszow Poland)、Grzegorz Bartosz(Laboratory of Analytical Biochemistry Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow Rzeszow Poland)、Kacper Kut(Laboratory of Analytical Biochemistry Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow Rzeszow Poland)、Ireneusz Kapusta(Department of Food Technology and Human Nutrition, Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences University of Rzeszow Rzeszow Poland)、Maria Goc(Laboratory of Analytical Biochemistry Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow Rzeszow Poland)、Izabela Sadowska‐Bartosz(Laboratory of Analytical Biochemistry Institute of Food Technology and Nutrition, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow Rzeszow Poland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Małgorzata Rak, Grzegorz Bartosz, Kacper Kut, et al. Anthocyanin Fluorescence for Monitoring Oxidation of the Chokeberry Fruit During Drying and Storage of Fruit Lyophilizates. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72223. 原著ライセンス:CC BY.