中華料理の高級食材として知られるチュウゴクモクズガニ(上海蟹とも呼ばれる)。その養殖では、エサとして「雑魚(トラッシュフィッシュ)」と呼ばれる未利用の小型魚が広く使われてきました。しかし雑魚は漁獲量や資源の持続性に課題があるため、代わりとなるエサを探す研究が進められています。今回紹介する論文は、雑魚の代替候補として、昆虫由来の飼料や貝類の飼料がモクズガニの「食用としての質」や「風味」にどう影響するかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、体重約4.15gの若いモクズガニを対象に、次の5種類の飼料をそれぞれ8週間与えました。(1)雑魚(TF、対照群)、(2)ミールワーム(MW)、(3)アメリカミズアブの幼虫(BSFL)、(4)イエバエの幼虫(FLM)、(5)スクミリンゴガイの肉(GASM)です。飼育後、カニの筋肉や肝膵臓(かにみそに相当する部位)に含まれる、うま味や風味に関わる遊離アミノ酸、核酸関連物質(イノシン酸など)、脂肪酸組成を比較しました。
その結果、筋肉中の風味に関わる遊離アミノ酸の量は、BSFL群とGASM群で雑魚群と同程度になったと報告されています(統計的な差が見られなかった)。また肝膵臓の同アミノ酸量は、GASM群のみが雑魚群と同程度でした。核酸関連物質については、GASM群では筋肉の5'-イノシン酸だけが雑魚群の水準に届かず、MW群とBSFL群では、それぞれ筋肉の5'-アデニル酸、肝膵臓の5'-グアニル酸のみが雑魚群と同程度だったとされています。
脂肪酸に関しては、肝膵臓のn-6系多価不飽和脂肪酸の割合はMW群とGASM群で雑魚群と同程度でしたが、注目すべき健康関連脂肪酸とされるn-3系多価不飽和脂肪酸の割合は、4つの代替飼料群すべてで雑魚群より有意に低かったと報告されています。ただしそのn-3系脂肪酸の割合を4群同士で比べると、GASM群はBSFL群・MW群・FLM群よりも有意に高かったとされています。
これらを総合し、論文では「3種類の昆虫由来飼料(MW・BSFL・FLM)は、カニの食用品質や風味に有意に悪い影響を与えた」と評価されています。一方でGASM(スクミリンゴガイ肉)は、筋肉・肝膵臓の遊離アミノ酸や核酸関連物質への影響がほとんど見られませんでした。n-3系脂肪酸の割合は雑魚群より有意に低いものの、他の3つの昆虫飼料群よりは有意に高い水準を保っていました。以上を踏まえ、今回測定した生化学的な指標に基づく限り、4種類の代替飼料の中ではGASMが、雑魚に代わるモクズガニ用飼料として最も有望であると結論づけられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、体重約4.15gの若いカニを対象に8週間という限られた期間・条件で行われたものであり、測定された生化学的な指標(遊離アミノ酸、核酸関連物質、脂肪酸組成など)に基づく評価です。実際の養殖現場での長期的な成長やコスト、味の官能評価など、要旨に記載のない側面については触れられていません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意して読む必要があります。
まとめ
この研究では、雑魚に代わるモクズガニの飼料として、昆虫由来の3種類の飼料(ミールワーム、アメリカミズアブ幼虫、イエバエ幼虫)は食用品質や風味に有意な悪影響を及ぼす一方、スクミリンゴガイの肉を用いた飼料は、遊離アミノ酸や核酸関連物質への影響が小さく、n-3系脂肪酸の面でも他の代替飼料より優れていたことが示されました。今回の結果に基づけば、スクミリンゴガイ肉が雑魚の代替飼料として最も有望であると報告されています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる飼料がチュウゴクモクズガニ(Eriocheir sinensis)の食用品質と風味関連成分に及ぼす影響(イスラエル・ジャーナル・オブ・アクアカルチャー(バミッジ)・2026年08月)