切り立った山々やアドリア海に面した美しい海岸線で知られるモンテネグロ。こうした土地の成り立ちそのもの、つまり「地質遺産(ジオヘリテージ)」を観光資源として活かす「ジオツーリズム」は、近年世界各地で注目されている分野です。ところで、旅先の楽しみといえば景色だけでなく「食」も欠かせません。もし、その土地ならではの機能性食品と地質遺産を組み合わせて観光の魅力を高められるとしたら、どうでしょうか。今回紹介する研究は、モンテネグロを舞台に、地質遺産・ジオツーリズム、そして食物繊維「Fibrex」を強化したパンという、一見結びつきにくいテーマを橋渡ししようとするユニークな試みです。
研究の内容:パンに食物繊維を加えて何が変わるのか
この研究は、モンテネグロの地質遺産とジオツーリズム、そしてFibrexという食物繊維を強化した機能性食品との関係を、持続可能な発展という観点から検討したものです。研究チームは、地質遺産という自然の魅力を伝える手段としてのジオツーリズムに着目し、それを地域の食(ガストロノミー)と結びつけるという、観光学と栄養科学を統合した学際的な研究を行いました。
具体的には、Fibrex食物繊維を0%、5%、10%の割合で配合したパンを試作し、複数の角度から評価しています。パンの品質評価、食感(テクスチャー)の分析、色の測定、化学組成の分析に加え、実際に食べてもらう官能評価も実施されました。食物繊維の含有量については、AOAC(米国分析化学者協会)やAACC(米国穀物化学者協会)といった標準的な分析手法と、Furda法と呼ばれる手法を組み合わせて測定されています。栄養面・機能面の特性は、こうした室内での分析に加え、現地でのアンケート調査によっても確認されました。
その結果、Fibrexを加えることでパンの栄養価が高まることが示されたと報告されています。さらに、現地の消費者を対象にした調査では、こうしたFibrex強化パンに対して肯定的な受け止め方が多かったことも示されています。これらの結果から、Fibrexを使った機能性食品をモンテネグロの食文化やジオツーリズムに組み込むことは、地質遺産と地域の食のシステム、そして持続可能な観光の発展を結びつける一つの方法になりうることが示唆されています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、地質遺産・観光・食品科学という異なる分野を横断した事例研究であり、モンテネグロという特定の地域を対象にしたものです。パンの栄養価向上や消費者からの好意的な反応が報告されている一方で、これらは今回の試作品と調査対象者の範囲内で得られた結果であり、他の地域や他の食品にそのまま当てはまるかどうかは今回の要旨だけからは判断できません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したものではない点には留意が必要です。
まとめ
今回紹介した研究は、モンテネグロの雄大な自然が生み出した地質遺産を観光資源として活かしつつ、Fibrex食物繊維を加えたパンという具体的な食品を通じて、地域の食と持続可能な観光を結びつけようとする試みでした。景色を楽しむだけでなく、その土地の「大地」から生まれた工夫が詰まった一切れのパンを味わう、そんな旅の楽しみ方が今後広がっていくのかもしれません。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:地質遺産、ジオツーリズム、Fibrex機能性食品:モンテネグロの事例研究(オープン・ジオサイエンシズ・2026年07月)