この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Systems Biology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

ポリフェノールやグルコシノレートといった、野菜や果物、お茶などに含まれる「生理活性化合物」は、慢性疾患のリスク低減と関連づけられることが多く、健康志向の高い人の間で注目されてきました。しかし、実はこれらの成分の多くは、食べたからといってそのまま体に吸収されるわけではありません。今回紹介する総説論文は、これらの成分が体内で「使える形」に変わる過程に腸内細菌が深く関わっていること、そしてその変換能力には人によって大きな差があることを整理したものです。

摂取したポリフェノールのほとんどは、そのままでは吸収されない

この総説によると、摂取したポリフェノールのうち活性型のまま血液中に到達する割合は、多くの場合10%に満たないとされています。しかもこの割合は化合物の種類によって大きく異なり、たとえば赤ワインなどに含まれるレスベラトロールは1%未満と非常に低い一方、単純なフェノール酸の一部は30〜50%程度に達することがあるとされています。

腸内細菌が「変換の主役」——だが能力には個人差が大きい

これらの化合物を吸収可能な代謝物へと化学的に変換する主な場は腸内細菌叢であると、この総説では説明されています。ところが、この変換を行う能力は人によって大きく異なるとされ、論文ではその個人差を決める要因として、①その人がもともと持っている腸内細菌の組成、②発酵食品の摂取状況、③プロバイオティクスやプレバイオティクスの補給、という3つの相互に関係し合う要因を挙げ、これらが組み合わさることで一人ひとりの「生体内変換の表現型(フェノタイプ)」が決まると論じています。この表現型が、摂取した生理活性化合物のうちどれだけが活性代謝物として血流に届くかを左右するとされています。

具体例:エコール、ウロリチン、ジヒドロベルベリン

論文で挙げられている具体例として、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインから腸内細菌によって作られる「エコール」は、欧米の成人ではおよそ30%程度の人にしか産生されないとされています。また、ザクロなどに含まれるエラジタンニン類から作られる「ウロリチン」については、人によって異なる3種類の代謝タイプ(メタボタイプ)が存在すると報告されています。さらに、生薬成分として知られるベルベリンから作られる「ジヒドロベルベリン」の産生にも個人差があるとされています。これらの変換能力の違いは、心血管系の指標や血糖コントロール、筋機能など、健康関連の測定値に測定可能な差を生むことが報告されているとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この論文は、新たな実験データを取得した研究ではなく、既存の知見を整理した総説(レビュー)である点に注意が必要です。対象としているのはポリフェノール、イソフラボン、エラジタンニン、グルコシノレート、アルカロイドであり、合成医薬品や食事以外の投与経路は対象外とされています。また、論文では、尿代謝物解析や便中の酵素活性測定によって個人の生体内変換能力を調べること(フェノタイピング)が技術的に可能だとした上で、こうした個人差を踏まえた栄養指導が、これまでポリフェノール関連の介入試験で見られてきた結果のばらつきを説明する手がかりになる可能性があるとしています。ただし、これはあくまで今後の応用可能性として論じられているものであり、標準化されたフェノタイピングの手法確立や、既存の試験データの再解析、規制の枠組みの見直しが今後の優先課題として挙げられています。

まとめ

「体によい」とされる食品成分も、実際にどれだけ体に届き働くかは、その人の腸内細菌の状態によって大きく変わりうる——この総説はそうした視点を、これまでの知見を整理する形で示しています。同じものを食べても効果の実感に個人差があるように感じられる背景には、こうした腸内細菌による変換能力の違いが関わっている可能性があるとされていますが、これは一つの総説論文による整理であり、結論が確定したものではない点には留意が必要です。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):腸内細菌叢が媒介する食事性生理活性化合物の生体内変換:個人差、決定要因、およびパーソナライズド栄養への示唆(フロンティアーズ・イン・システムズ・バイオロジー・2026年08月)

著者:Tapash Chakraborty(chool of Pharmaceutical Sciences, Girijananda Chowdhury University, Guwahati, Assam, India)、Shashanka Jyoti Kashyap(chool of Pharmaceutical Sciences, Girijananda Chowdhury University, Guwahati, Assam, India)、Pragyan Deep Chetia(chool of Pharmaceutical Sciences, Girijananda Chowdhury University, Guwahati, Assam, India)、Sumona Purkayastha(chool of Pharmaceutical Sciences, Girijananda Chowdhury University, Guwahati, Assam, India)