この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

自閉スペクトラム症(ASD)は、対人的なやりとりやコミュニケーションの難しさ、こだわりの強い反復的な行動などを特徴とする、子どもの頃に現れる発達の特性です。原著によれば、その背景には遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に関わっており、原因や発症の仕組みにはまだ分かっていない部分が多く残されています。

著者らが注目したのは、環境要因のひとつである腸内細菌です。腸の中にすむ細菌の集まりは、出産や日々の生活を通じて母親から子どもへ受け渡される部分があると考えられてきました。しかし論文は、生まれた後の母子間での細菌の共有がASDとどう関わるのかは、まだ十分に調べられていないと述べています。そこで研究チームは、ASDの子どもと母親の間で共通して見られる腸内細菌と短鎖脂肪酸の特徴を調べ、母子の受け渡しを通じてASDと関わりうる細菌を見つけることを目的としました。

短鎖脂肪酸とは、腸内の細菌が食物繊維などを分解する過程でつくり出す物質のことで、酢酸・プロピオン酸・酪酸などが代表的です。

どのように調べたか

研究チームは、ASDと診断された子ども37人とその母親、合わせて37組の親子を対象としました。子どもたちは小児科外来や地域から集められ、小児自閉症評定尺度(CARS)と呼ばれる評価尺度で症状の程度を数値化したうえで、医療機関によってASDと診断された子どもたちです。原著によると、参加した子どもの平均年齢は約6.6歳、CARSの平均点は43.1点で、中等度から重度にあたる範囲でした。てんかんなど他の神経疾患や重い臓器の病気がある場合は対象から除かれています。

それぞれの親子から便の検体を集め、二つの方法で分析しました。ひとつは16S rRNA遺伝子の解析で、便の中にどんな細菌がどれくらいいるかを、細菌がもつ共通の遺伝子の配列の違いから読み取る手法です。もうひとつは、ガスクロマトグラフ質量分析計を使って、酢酸・プロピオン酸・酪酸など6種類の短鎖脂肪酸の量を測る分析です。

さらに著者らは、この研究には健康な対照群が含まれていないため、見つかった細菌がASDに特有のものかどうかを直接には判断できないと述べています。そこで、公開されている二つの別の研究データを取り寄せ、注目した細菌がASDの人で実際に増えているかどうかを外部から確かめる解析も行いました。

報告された主な結果

まず母子の腸内細菌全体を比べたところ、細菌の種類の豊かさや偏りを示す指標には、子どもと母親の間で統計的に意味のある差は見られませんでした。腸内細菌の構成全体を比べる解析でも、両者は大きく重なっていました。

16S rRNA遺伝子の解析では、便から検出された細菌の配列を、わずかな塩基の違いまで区別した単位(ASV)としてまとめ、その数を数え上げます。母親と子どもの双方から検出された、つまり母子で共通するASVを数えると、1組あたり平均24.81でした。これは子ども側で検出された全体に対して平均23.92%にあたります。この共有が偶然によるものかを確かめるため、母子の組み合わせをランダムに入れ替えて999回計算し直す検定を行ったところ、実際に観察された共有はその偶然の期待値よりも有意に多いという結果でした。著者らはこれを、ASDの子どもと母親の間には中程度の腸内細菌の重なりがあることを示すものと述べています。

主要な細菌の属ごとに母子の量を照らし合わせると、多重比較の補正を行った後でも15の属で母子間に有意な正の相関が見られました。相関が強かったのはFaecalibacterium(相関係数0.518)、Subdoligranulum(同0.462)、Roseburia hominis(同0.458)などで、いずれも酪酸をつくる細菌にあたります。短鎖脂肪酸では、プロピオン酸に母子間の有意な正の相関(相関係数0.418)が認められ、酢酸と酪酸では統計的に意味のある相関には届きませんでした。

子どもの症状の重さとの関係も調べられています。CARSの点数とは、Blautiaという属の量が正の相関を示し、KlebsiellaとLactobacillusは負の相関を示しました。またプロピオン酸の量はCARSの点数と正の相関を示し(相関係数0.473)、症状が重い群では軽度から中等度の群より平均値が有意に高いという結果でした。なお著者らは、Klebsiellaについての今回の結果は、この細菌がASDで増えているとする従来の多くの報告とは逆向きであり、参加者の多様性や菌株ごとの働きの違いを反映している可能性があると考察しています。

出産の方法で分けた解析では、経腟分娩の組は帝王切開の組に比べ、共有されるASVの数や割合など四つの指標すべてで有意に高い値を示しました。ただし帝王切開の組でも共有されるASVは残っており、著者らは授乳や同居といった生まれた後の生活環境も母子の細菌の似通いに関わっていると述べています。外部データによる検証では、二つのデータセットの双方で一貫してASDの群に多く見られた属はIntestinibacterのみでした。

この研究が示すこと

この研究は、ASDの子どもと母親の腸内細菌が偶然の範囲を超えて重なっていること、そして15の細菌の属とプロピオン酸が母子の間で連動していることを報告しました。著者らは、これらが母から子へ受け渡され、ASDに関わっている可能性があり、早期の介入の手がかりになりうると述べています。

ただし著者ら自身が挙げているとおり、対象は37組と少なく、一時点で採取した検体を比べる設計のため、細菌や短鎖脂肪酸が症状の原因であると結論づけることはできません。健康な親子との比較がないこと、子どもの食事の記録が集められておらず食習慣の影響を除けないことも限界として示されています。ここで報告されたのは、母と子の腸内環境が予想以上に結びついているという観察であり、その結びつきが何を意味するのかを解き明かす作業はこれからだと言えます。

著者:Fangtao Xiang(Sichuan Provincial Key Laboratory of Philosophy and Social Sciences for Language Intelligence in Special Education, Leshan Normal University)、Xirong Wan(Leshan Central District Maternal and Child Health Hospital)、Xuebing Han(College of New Energy Materials and Chemistry, Leshan Normal University)、Tao Zhuang(Guanghan Maternal and Child Health Hospital)、HanYu Wang(College of New Energy Materials and Chemistry, Leshan Normal University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fangtao Xiang, Xirong Wan, Xuebing Han, et al. Shared gut microbiota features between children with autism spectrum disorder and their mothers. Frontiers in Medicine 2026-09-09. DOI: 10.3389/fmed.2026.1873159. 原著ライセンス:CC BY.