「記憶力の衰えが気になる」という声は、40代以降になるとよく耳にするようになります。こうした変化に食品成分でアプローチできないか、という研究は世界各地で行われていますが、今回紹介するのは、ホタテに由来する「プラズマローゲン」という脂質成分に着目した研究です。
プラズマローゲンは、脳に多く存在する特殊なリン脂質の一種で、神経細胞同士のつながり(シナプス)の状態を保つことに関わっているとされています。ただし、これまでのところ、特に病気を抱えていない健康な人を対象に、この成分の摂取が認知機能にどのような関連を持つのかを調べた研究は限られていました。そこで研究チームは、言語記憶(言葉を覚えて思い出す力)が平均よりやや低めだった、40歳以上の健康な日本人を対象に、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験という、信頼性の高い方法で検証を行いました。
研究でわかったこと
この試験では、168人がスクリーニングを受け、そのうち条件に合った68人が、ホタテ由来プラズマローゲン(1日1mg)を摂取するグループと、有効成分を含まないプラセボ(偽薬)を摂取するグループに、1:1の割合でランダムに振り分けられました。摂取期間は12週間で、どちらのグループに割り当てられたかは、参加者にも研究者にもわからないようにする「二重盲検」という方法がとられています。
認知機能の評価には、Cognitrax(CNS Vital Signs)というウェブベースの検査バッテリーが使われ、標準化言語記憶スコアを主要な評価項目としました。あわせて、他の認知領域や、脳の神経細胞の維持・成長に関わるとされる血中BDNF(脳由来神経栄養因子)の値も調べられています。
最終的に66人が解析の対象となりました。12週間後、標準化言語記憶スコアは、プラセボ群と比べてプラズマローゲン群で有意に高くなっていたと報告されています(推定周辺平均の群間差10.1、95%信頼区間0.4〜19.9、p=0.042)。また、注意力に関連する一部の認知領域についても、プラズマローゲン群でより大きな改善が見られたとされています。血中BDNF値は両グループで上昇しましたが、群間で有意な差はなく、プラズマローゲン群では12週時点でBDNF値と認知機能の間にわずかな負の相関が観察されたとのことです。安全性については、有害事象や臨床的に問題となるような懸念は報告されなかったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、言語記憶がもともと平均以下だった健康な中高年を対象にした、比較的小規模な試験(解析対象66人)である点に留意が必要です。論文の結論部分でも、今回の結果を確認し、長期的な安全性を評価するためには、さらなる研究が必要であるとされています。注意関連の認知領域における改善については、探索的な解析で示唆されたものである点も押さえておきたいポイントです。一つの研究结果としてこうした関連が報告された段階であり、プラズマローゲンの摂取によって誰もが同様の効果を得られると確定したわけではありません。
まとめ
今回の試験では、言語記憶が平均以下だった健康な中高年成人において、ホタテ由来プラズマローゲンを12週間摂取したグループで、プラセボ群と比べて標準化言語記憶スコアの改善が見られたと報告されています。注意関連の認知領域についても改善の可能性が示唆されており、安全性についても大きな懸念は見られなかったとのことです。今後、さらなる研究によってこうした関連がどこまで確認されるか、注目されるところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:経口投与されたホタテ由来プラズマローゲンは健康な中高年成人の認知機能を改善する:ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)