日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はオランダ、カナダ、日本です。
掲載誌:Microbiology Spectrum
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、遺伝的な変化によって多様な系統が生じ、鳥の種類によって増殖のしやすさや病気の重さが異なります。動物実験でこれらを調べるには時間や費用がかかり、比較できるウイルスの数にも制約があります。
研究チームは、ニワトリとアヒルの培養細胞を使った実験に数理モデルを組み合わせ、近縁のウイルス間で増殖の特徴を詳しく比較しようとしました。新たなウイルスを評価するときの比較基準となる、8株の特徴を整理することも目的でした。
何を、どのように調べたか
対象は、2014~2024年のオランダでの流行をもとに選んだ、クレード2.3.4.4という遺伝的な系統に属する高病原性H5鳥インフルエンザウイルス8株です。H5N8、H5N6、H5N1が含まれ、7株は家禽、1株は野鳥から分離されました。
研究チームは、ニワトリとアヒルの胚から得た初代線維芽細胞で各ウイルスを培養し、感染力を持つウイルスの量と、細胞が死ぬ経過を時間に沿って測定しました。ウイルス量のピークや半数の細胞が死ぬまでの時間に加え、測定値を数理モデルに当てはめて増殖過程を分析しました。
モデルでは、細胞を「感染していない」「感染したがまだウイルスを作っていない」「ウイルスを作っている」「死んだ」の4段階に分けました。これにより、感染細胞がウイルスを作り始めてから最初の別の細胞への感染が起こるまでの時間や、1個の感染細胞が平均して何個の細胞に感染を広げるかを表す細胞レベルの基本再生産数などを推定しました。
主な報告結果
研究チームは、ウイルス量のピークが全体としてニワトリの細胞よりアヒルの細胞で高くなる傾向を報告しました。特に、アヒルから分離されたH5N8-2016株とH5N6-2017株では、ほかの6株よりも両者の差が大きく、この2株だけがニワトリの細胞よりアヒルの細胞を速く死滅させました。
モデルによる推定では、ウイルス産生の開始から次の細胞への最初の感染までの時間は、概してニワトリの細胞よりアヒルの細胞で短く、細胞レベルの基本再生産数もアヒルの細胞で高い傾向がありました。
株ごとの違いは、特にニワトリの細胞で見られました。次の細胞への感染までの時間はH5N8-2020株とH5N6-2017株で長く、H5N1株で最も短くなりました。H5N1株では、H5N6株やH5N8株よりウイルス量のピークも高い傾向がありました。一方、アヒルの細胞では、この感染までの時間はH5N8-2014株で最も長かったものの、株間ではおおむね似ていました。
この報告が示すこと
著者らは、培養実験と数理モデルを組み合わせることで、ウイルス量のピークだけでは捉えにくい増殖過程の違いを、複数の指標で比較できると結論づけています。既存の動物実験との比較には共通する傾向もあり、とりわけ次の細胞への感染までの時間は、生体内での増殖の特徴を捉える指標になる可能性があると述べています。
ただし、調べたウイルスは8株で、対応する動物実験のデータ、特に個体間の伝播データは限られています。また、モデルが測定値によく合っていても、そこから推定した時間や基本再生産数の正確さが保証されるわけではなく、独立した実験による検証は行われていません。本報告は細胞での増殖特性を比較する枠組みを示したものであり、生きた鳥の間での感染の広がりを絶対的な数値として推定できるものではありません。
原著論文の著者・所属:Luca Bordes(Department of Virology, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)、Peter Hobbelen(Department of Epidemiology, Bioinformatics & Animal Models, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)、Elena Blokker(Department of Virology, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)、Wim H. M. van der Poel(Department of Virology, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)、Catherine A. A. Beauchemin(Department of Physics, Toronto Metropolitan University, Toronto M5B 2K3, Canada; RIKEN Center for Interdisciplinary Theoretical and Mathematical Sciences (iTHEMS), RIKEN, Wako 351-0198, Japan)、Nancy Beerens(Department of Virology, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)、José L. Gonzales(Department of Epidemiology, Bioinformatics & Animal Models, Wageningen Bioveterinary Research, 8221 RA Lelystad, The Netherlands)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luca Bordes, Peter Hobbelen, Elena Blokker, et al. Mathematical modeling of in vitro replication dynamics for multiple highly pathogenic avian influenza clade 2.3.4.4 viruses in chicken and duck cells. Microbiology Spectrum(出版社:American Society for Microbiology) 2026-10-08. DOI: 10.1128/spectrum.00843-26. 原著ライセンス:CC BY.