「アダプトゲン」という言葉を、サプリメントの成分表示などで見かけたことがある人もいるかもしれません。ストレスへの身体の適応を助けるとされる植物由来の天然成分の総称で、健康志向の高まりとともに注目を集めています。今回紹介する研究は、こうしたアダプトゲン植物が実際の食品市場でどれだけ使われているのか、そしてそれが科学研究の裏付けとどの程度対応しているのかを、文献データと市場データの両面から調べたものです。
研究を行ったのは、カナダ・マニトバ大学の食品・人間栄養科学分野の研究者と、アイルランドの企業に所属する研究者らのチームです。ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ誌に2026年7月に掲載予定です。
何を、どのように調べたのか
研究チームが対象としたのは、代表的なアダプトゲン植物5種類です。ベニバナオオシャクナゲ属のRhodiola rosea(イワベンケイ)、Panax ginseng(高麗人参)、Eleutherococcus senticosus(エゾウコギ)、Withania somnifera(アシュワガンダ)、Schisandra chinensis(チョウセンゴミシ)が選ばれました。
これらの植物について、1945年から2025年までに発表された学術論文を対象にした文献計量分析(どのような研究テーマがどれだけ発表されてきたかを定量的に把握する手法)と、2002年から2025年にかけて世界で発売された食品を対象にした市場調査を行い、両者を突き合わせて比較しています。
研究でわかったこと
文献分析の結果、これら5種類の植物に関する学術研究は、主に生理学的な効果、つまり身体にどのような作用を及ぼすかという点に強く焦点が当てられてきたことが示されました。一方で、これらの植物を実際に多様な食品カテゴリーに組み込む研究は限られていたとされています。
市場データからは、消費者の関心が高まっている様子がうかがえた一方で、その関心は主にサプリメントと飲料という限られたカテゴリーに集中していたことが報告されています。焼き菓子・パン類やスナック菓子といった主要な食品カテゴリーでは、アダプトゲンを取り入れた製品開発の余地がまだ大きく残されていることが指摘されています。
これらを総合し、研究チームは、アダプトゲンを含む食品の商品化が急速に進む一方で、複雑な食品の中に組み込んだ場合の有効性については科学的な検証がまだ十分でないという「ずれ」が存在すると結論づけています。そのうえで、焼き菓子・スナック・乳製品・シリアル系食品へのアダプトゲンの応用が、今後の機能性食品研究や製品開発において重要な対象になりうると述べています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、あくまで既存の文献と市場に出回っている製品情報を集めて分析したものであり、アダプトゲンそのものの健康効果を新たに実験・検証したものではありません。研究で対象となった植物が特定の疾患の予防や治療に効くと結論づけているわけではない点にも注意が必要です。一つの分析研究として、今後さらに食品への応用に関する研究が求められる分野であることを示すものと捉えるのが妥当でしょう。
まとめ
この研究は、Rhodiola rosea、Panax ginseng、Eleutherococcus senticosus、Withania somnifera、Schisandra chinensisという5種のアダプトゲン植物について、学術研究の蓄積と実際の食品市場での活用状況を初めて突き合わせて整理したものです。研究では、サプリメントや飲料以外の食品カテゴリーにはまだ活用の余地が大きいことが示されましたが、同時にそうした食品への応用に関する科学的な裏付けは十分ではないことも明らかになりました。今後、焼き菓子やスナック、乳製品などへの応用に関する研究が進むかどうか、注目される分野といえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Carla N. Molina, Fatma Boukid, Jordí Mañes, et al. Mapping the growth and trends of plant adaptogens in food: A comprehensive analysis of literature and market insights. ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.jafr.2026.103184. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.