6月の第3日曜日、父の日。アメリカで生まれたこの風習が日本に定着したのは1980年代ごろとされ、今では黄色いバラを贈り、父親の好物を囲む日として広く親しまれています。食卓に並ぶのは、冷えたビールとえだまめ、うなぎやかつおの刺し身、たこの酢の物、そして食後の一杯の緑茶——どこか懐かしく、しかし考えてみれば贅沢な顔ぶれです。そしてその顔ぶれが、栄養の面でも思いのほか理にかなっています。

ビールとえだまめ、定番コンビの正体

父の日のテーブルにまず置かれるのが、ビール(淡色)えだまめ(生)の組み合わせでしょう。ビールは日本酒と同じく醸造酒の一種で、糖質を含みます。大びん1本(約638g)でエネルギーは約249kcal。主役はアルコールで、100gあたり3.7g含まれます。なお、妊娠中・授乳中の方や服薬中の方は飲酒を控えてください。飲む場合も適量を心がけましょう。

その傍らに置かれるえだまめは、つまみの顔をした実力者です。さやつき10さや(約30g、可食部はその55%にあたる約16〜17g程度)というひと口サイズの中にも、注目すべき数値が潜んでいます。

特筆したいのがモリブデンです。聞き慣れない名前かもしれませんが、体内のいくつかの酸化還元酵素(物質を酸化・還元する反応を助けるたんぱく質)の補助因子として働くミネラルです。えだまめは可食部100gあたり240µgという高い密度でモリブデンを含んでおり、少量でも効率よくとれる食品といえます。さやつき10さや(可食部約16〜17g)では38〜41µgを摂取できる計算になり、これは日本人の食事摂取基準における女性30〜49歳の推奨量(25µg/日)を上回る量です。さやつき10さや程度でも推奨量を上回る量を摂れる、優秀なミネラル源といえます。

もうひとつ、葉酸も見逃せません。葉酸はビタミンB群の一種で、核酸の生合成に関わり赤血球の形成にも関わる栄養素です。えだまめ100gあたり320µgで、100gあたりの値として推奨量(240µg/日)の133%に相当します。なお、さやつき10さや(可食部約16〜17g)では約51〜54µg(推奨量の約21〜23%)程度となります。葉酸はビタミンB12と協力して赤血球をつくるため、両方そろっていることが必要とされています——その意味でも、さまざまな食材を組み合わせて食べる父の日の食卓は、栄養の補い合いという点でも合理的な構成になっています。なお、妊娠を計画中・妊娠初期の方はサプリメントとの重複摂取量に注意し、医師や管理栄養士にご相談ください。

保存の豆知識をひとつ。えだまめは買ったらすぐにゆで、水けをふいて冷凍するのがおすすめで、冷凍なら約1カ月保存がきます。解凍せずそのまま炒め物や煮物に使えるのも便利です。

父の日のごちそう——うなぎ、かつお、たこ

メインの一品として食卓に上がることが多いのが、うなぎ(養殖もの)です。土用の丑の日のイメージが強いですが、父の日に奮発して選ぶご家庭も少なくありません。うなぎ100gあたりのエネルギーは228kcal、脂質も豊かで、ビタミンDを100gあたり18µg含みます(目安量9µg/日)。なお、以下の成分値は八訂の「うなぎ 養殖 生」の値に基づきます。加熱調理後は成分値が変動する場合がありますが、蒲焼きなど加熱したものを食べるのが一般的です。妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は生食を避け、加熱調理したものを選んでください。

また、うなぎにはセレンが100gあたり50µg含まれます(100gあたりの値として、推奨量25µg/日の200%相当)。セレンは耐容上限量が設定されているミネラルで、この割合はあくまで推奨量に対する値であり耐容上限量の基準ではありません。通常の食事量で食べる分には心配ない水準ですが、サプリメントとの重複摂取には注意が必要です。

刺し身の選択肢としてかつお(秋獲り)も、秋の深い脂のりが魅力の一皿として父の日の食卓に取り入れる家庭があります。6月の旬としては初がつお(春獲り)が知られますが、ここで紹介するのは脂のりが増してまた異なるうまさをもつ秋獲りの栄養値です。刺し身5切れ(約80g)でたんぱく質は約20gです。セレンは100gあたり100µg含まれ、刺し身5切れ(約80g)を食べた場合は約80µg、推奨量(25µg/日)の約320%相当となります。この割合は耐容上限量の基準ではありませんが、サプリメントを使っている場合は重ねて大量にとらないよう意識したいところです。かつおはナイアシンも100gあたり18mg含む、たんぱく質の豊かな魚です。なお、妊婦・高齢者・免疫機能が低下している方は生食を避け、加熱調理したものを選んでください。

酢の物や前菜として添えたいまだこ(皮つき)は、たこ類の中で最も流通量が多く、食卓でも身近な存在です。足1本(約150g、廃棄率15%を考慮した可食部は約128g)でたんぱく質約21g、エネルギー約89kcal。脂質がほとんどなく、さっぱりとした後味が脂ののった料理の合間に心地よいです。

和牛ステーキと緑茶という選択肢

父の日の特別感を出すなら、和牛リブロース(脂身つき・焼き)のステーキも候補に挙がります。「和牛」と表示できるのは黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種とその交雑種に限られます。脂質が100gあたり56.8gと多く、エネルギーも541kcalと高いです。脂質・エネルギーが多いため、脂質異常症・高血圧・糖尿病など生活習慣病が気になる方や治療中の方は量や頻度にご注意ください。一方でたんぱく質は100gあたり14.6g(女性30〜49歳の推奨量50g/日の29%相当、100gあたりの値)を含み、食べ応えのあるごちそうにふさわしい数値です。牛肉は食物アレルギーを起こしやすい特定原材料に準ずる食材でもあるため、食べる方の体質に合わせて選んでください。

食後の一杯にはせん茶(茶葉)を。緑茶は旨み成分のテアニンやカテキンを含む飲み物として知られています。茶葉そのものは100gあたり55mgというマンガンを含みますが(目安量3mg/日、耐容上限量11mg/日)、これはあくまで茶葉100g自体の値です。大さじ1杯(約6g)の茶葉を湯で浸出して飲む通常の緑茶では、マンガンの大部分は湯に溶出しないとされており、実際に飲み物として摂取するマンガン量は茶葉段階の値より大幅に少なくなります。一般的な飲み方において目安量や耐容上限量を大きく超える心配は少ないと考えられていますが、実際の浸出量は浸出時間・温度・茶葉の種類によっても異なります。

食卓に宿る、選び抜かれた味

父の日の献立をあらためて眺めると、「好きなものを食べさせてあげたい」という気持ちで選ばれてきた料理が、現代の栄養学の視点から見ても実に合理的であることに気づきます。さやつき10さや程度でもモリブデンを効率よく摂れるえだまめ、たんぱく質とビタミン類の宝庫であるうなぎ・かつお、さっぱりとしたまだこ——それぞれが補い合い、食卓をひとつの栄養の場として完成させています。

そうして選ばれてきた料理が、ちゃんと体にも届いていたのです。父の日の食卓には、そんな小さな発見があります。

栄養成分値は日本食品標準成分表(八訂)に基づきます。割合(%)は特記なき場合日本人の食事摂取基準の女性30〜49歳の推奨量・目安量に対する100gあたりの値です。たんぱく質の推奨量50g/日は女性30〜49歳の値です。一食量ベースの換算を示す箇所はその旨を本文中に明記しています。

栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」(厚生労働省)

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。