日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Algal Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スーパーで魚や肉を包んでいるプラスチック容器やラップは、便利な一方で自然界では分解されにくく、環境中に長期間残ってしまうことが課題とされています。こうした石油由来プラスチックの代替として近年注目されているのが、海藻などの天然素材から作る生分解性フィルムです。長崎大学などの研究グループは、日本で「テングサ」として知られる紅藻の一種Gelidium elegansから抽出した寒天をベースに、キトサンとクルクミン(ウコンの根茎に含まれる黄色い成分)を組み合わせた複合フィルムを開発し、その性質と魚の切り身に対する保存効果を調べました。
寒天にキトサンとクルクミンを加えるとどうなるか
研究チームは長崎で採取したG. elegansから寒天を抽出し、キトサン(ナカライテスクから購入)とクルクミン(東京化成工業から購入)を加えた「寒天-キトサン-クルクミン(AG-CS-CUR)」フィルムを作成しました。比較対象として、寒天のみ(AG)、寒天とキトサンのみ(AG-CS)、寒天とクルクミンのみ(AG-CUR)のフィルムも同じ方法で作られています。クルクミンを加えたフィルムは黄色みが強くなり、光の透過を防ぐ働き(不透明度)が高まりました。これは、クルクミンが持つ構造上の性質によって紫外線や可視光を遮る効果につながるとされ、著者らは食品を光から守る点で活性包装材としての利点になると述べています。
水蒸気や酸素の通しやすさ(バリア性)については、AG-CS-CURフィルムはAG(寒天のみ)よりも水蒸気透過率・酸素透過率がともに低くなりました。具体的には、水蒸気透過率はAGの3.88×10⁻¹⁰ g/m・s・Paに対しAG-CS-CURは2.99×10⁻¹⁰ g/m・s・Pa、酸素透過率はAGの8.48×10⁻⁷ g/m・sに対しAG-CS-CURは6.62×10⁻⁷ g/m・sでした。ただし、キトサンのみを加えたAG-CSが最もバリア性に優れており、クルクミンの疎水性がフィルム内部の緻密な構造をやや乱している可能性があると考察されています。また、水への浸けやすさを示す膨潤度は、AGの686.31%からAG-CS-CURでは161.90%へと大きく低下しました。この変化は赤外線分光分析(FTIR)で確認された水素結合の状態変化と関連づけられています。走査電子顕微鏡による観察では、AG-CS-CURフィルムは目立った孔のない緻密な構造をしていることも確認されました。
抗酸化力の指標であるDPPHラジカル消去活性とヒドロキシルラジカル消去活性を測定したところ、AG-CS-CURフィルムはそれぞれ68.83%、60.33%という値を示しました。特にヒドロキシルラジカル消去活性は、AG-CUR(47.24%)やAG-CS(40.99%)、AG(27.08%)よりも高く、キトサンとクルクミンを組み合わせることで抗酸化の働きが高まる傾向がみられています。さらに、食品包装材としての安全性を確認するため、水・酸性(pH4.5未満)・脂肪性の各食品を模した溶液にフィルムを浸し、溶け出す物質の量を調べる「全体溶出量試験」も行われ、AG-CS-CURからの溶出は2.6×10⁻⁴ mg/dm²未満という低い水準にとどまりました。生分解性についても、土に埋めて28日間観察した結果、最大32.14%の重量減少(分解)が確認されています。
実際の魚の切り身での保存試験
研究チームは、市場で購入したブリ(Seriola quinqueradiata)の切り身を使い、AG、AG-CS、AG-CUR、AG-CS-CUR、そして比較用の市販プラスチックフィルム(ポリ塩化ビニリデン、PVDC)でそれぞれ包装し、4℃で7日間保存する実験を行いました。この実験は市場で入手した死後の組織を用いたもので、生きた動物を扱う実験ではないため、動物実験倫理委員会の承認は不要と説明されています。保存1日目、3日目、5日目、7日目に、切り身の色の変化(ΔEという指標で表される色差)と重量減少を測定しました。
その結果、AG-CS-CURで包んだ切り身は色の変化(ΔE=7.89~9.38)がプラスチックフィルム(ΔE=17.41~20.00)に比べて小さく、変色が抑えられる傾向が示されました。一方で、重量減少についてはAG-CS-CUR(9.30~23.27%)の方がプラスチックフィルム(5.88~8.60%)よりも大きく、この点ではプラスチックに及びませんでした。ただし、寒天のみのAGフィルム(6.64~28.67%)と比べると、AG-CS-CURの方が重量減少を抑えられており、キトサンとクルクミンを加えることで寒天フィルム単体よりも性能が改善したことがうかがえます。
この研究の位置づけと留意点
この研究は長崎大学の研究者を中心に、マレーシア・トレンガヌ大学の研究者も加わって行われたもので、素材としては日本近海で採れるテングサ(G. elegans)由来の寒天が使われています。論文では、水産加工廃棄物由来のキトサンと組み合わせることで、食品廃棄物の価値を高める取り組みとしても位置づけられています。
ただし、これは一つの研究で得られた結果であり、実験室規模での測定や、ブリという特定の魚種・特定の保存条件(4℃、7日間)における結果である点には留意が必要です。また、AG-CS-CURフィルムはプラスチックフィルムに比べて重量減少(水分の蒸散)を抑える点では劣っており、著者らも水蒸気バリア性や酸素バリア性がAG-CSフィルムより低下したことを課題として挙げています。この技術がすぐに実用の食品包装に置き換わることを示すものではなく、今後さらなる検証が必要な段階の基礎研究といえます。
著者:Nor Alia Che Nozid(Institute of Integrated Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki, 8528521, Japan)、Nor Hayati Ibrahim(Faculty of Food Science and Agrotechnology, Universiti Malaysia Terengganu, 21030, Kuala Nerus, Terengganu, Malaysia)、Asami Yoshida(Institute of Integrated Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki, 8528521, Japan)、黃祐石(Institute of Integrated Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki, 8528521, Japan)、Takuya Hirose(Institute of Integrated Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki, 8528521, Japan)、Katsuya Hirasaka(Organization for Marine Science and Technology, Nagasaki University, Nagasaki, 8528521, Japan)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Nor Alia Che Nozid, Nor Hayati Ibrahim, Asami Yoshida, et al. Design and characterization of biodegradable curcumin-loaded active agar-based composite film packaging from Gelidium elegans seaweed for extending the shelf life of fish fillets. アルガル・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.algal.2026.104870.