ウコンなどに含まれる黄色い成分クルクミンは、抗菌性を持つことで知られていますが、水にほとんど溶けないという弱点があります。この性質のため、飲料やソースといった水分の多い食品にそのまま応用することは難しいとされてきました。近年注目されている光線力学技術(PDT)は、光感受性物質に特定の光を当てることで殺菌効果を得る、熱を使わない殺菌・保存の手法です。中国・福建農林大学食品科学学院の研究グループは、市販の高溶解性クルクミン製剤『CuminUP60®』を用い、この技術が食品の腐敗に関わる微生物に対してどの程度の効果を持つのかを調べました。
何を、どのように調べたのか
研究グループが対象としたのは、果物・野菜加工品でよく問題となる腐敗微生物のひとつ、酵母の一種であるSaccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビシエ)です。この酵母は飲料やソース類の製造現場で経済的損失の原因になることがあるとされています。実験では、水に溶けやすく加工されたクルクミン製剤CuminUP60®を用意し、そこに青色光を照射することで、酵母に対する殺菌効果とその仕組みを検討しました。あわせて、光照射によって酵母の細胞内でどのような変化が起きているのかも調べられています。
研究でわかったこと
その結果、CuminUP60®を75マイクロモル濃度で用い、0.396ジュール毎平方センチメートルの青色光を組み合わせた条件において、酵母のコロニー形成単位(生きた菌の数を示す指標)が対数で4.12減少したと報告されています。これは、この条件下で生存する酵母の数が大きく減少したことを意味する結果です。さらに、細胞の中でどのような変化が起きたのかを調べたところ、光照射後の酵母細胞内および細胞のエネルギー産生を担うミトコンドリア内で、活性酸素種(ROS)が明確に増加していたことが確認されました。この活性酸素種の増加に続いて、ミトコンドリアの膜の状態が乱れ(脱分極)、細胞が使うエネルギー物質であるATPが減少していく様子も観察されたとされています。研究グループは、これらの一連の変化が、CuminUP60®を用いた光線力学技術による酵母の不活化に関わる仕組みであると位置づけています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、実験室内でSaccharomyces cerevisiaeという特定の酵母を対象に行われたものであり、示された数値や仕組みも、この条件下で得られた結果です。今回の要旨や記述の中には、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。また、この記事で紹介した内容はあくまで一つの研究にとどまり、CuminUP60®や光線力学技術が実際の食品製造現場でどこまで有効に使えるかについて、結論が確定したわけではありません。研究グループ自身は、この技術が食品業界における真菌性の腐敗を熱を使わずに抑える新しい戦略になりうる可能性を示すものとして位置づけています。
まとめ
今回紹介した研究では、水に溶けやすく改良されたクルクミン製剤CuminUP60®に青色光を組み合わせることで、飲料やソース類の腐敗原因となる酵母Saccharomyces cerevisiaeの生存数を大きく減らせることが示されました。その背景には、細胞内での活性酸素種の増加やミトコンドリアの機能低下といった一連の変化があると報告されています。これは食品の非加熱殺菌技術の可能性を探る基礎研究のひとつであり、今後さらに検証が積み重ねられていく分野といえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Miaofeng Chen, Wanzhen Dai, Siying He, et al. CuminUP60® - a commercially-available high-soluble curcumin exhibits photodynamic fungicidal efficacy against Saccharomyces cerevisiae. エルダブリューティー (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119833. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.