食品の安全を脅かす細菌の中には、表面に膜状の「バイオフィルム」を作って洗浄や消毒に抵抗するものがあり、食品加工現場での対策が課題となっています。こうした背景から、化学合成の抗菌剤に代わる天然由来の候補として、植物から抽出される精油が注目されています。今回紹介する研究では、中国の伝統薬用植物に由来する精油9種類を対象に、代表的な食中毒関連細菌に対する働きが比較されました。
どのように調べたのか
研究チームは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、パラチフスB菌(Salmonella paratyphi B)という4種類の細菌を対象に、9種類の伝統薬用植物由来精油の抗菌力を調べました。評価には、阻止円の大きさを測るDIZ(disk inhibition zone)試験、菌の増殖を抑えるのに必要な最小濃度を調べるMIC(最小発育阻止濃度)試験、バイオフィルムの残存量を色素で測定するクリスタルバイオレット染色、精油に含まれる揮発性成分を分析するGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)、菌の増殖曲線の観察、そして走査型電子顕微鏡(SEM)による菌の表面構造の観察が用いられました。
スイカズラなどの精油に幅広い抗菌活性
比較の結果、スイカズラ(Lonicera japonica)、青風藤(Sinomenium acutum)、コガネバナ(Scutellaria baicalensis)に由来する精油が、比較的幅広い抗菌活性を示したと報告されています。中でもスイカズラ由来精油(LJEOと表記)が最も際立った結果を示し、黄色ブドウ球菌に対しては38.29mm、リステリア菌に対しては25.29mm、パラチフスB菌に対しては24.75mmという阻止円の値が得られました。また最小発育阻止濃度は、黄色ブドウ球菌に対して0.15625%、リステリア菌に対して0.3125%と、低い濃度でも効果が確認されたとされています。
さらにこのLJEOは、すでに形成された成熟バイオフィルムに対しても働きを示し、リステリア菌のバイオフィルムを60.58%、大腸菌のバイオフィルムを50.80%、パラチフスB菌のバイオフィルムを47.82%除去したと報告されています。一方で、黄色ブドウ球菌が作るバイオフィルムに対しては限定的な効果にとどまったとされ、菌の種類によって効きやすさに差があることが示唆されています。
GC-MS分析では、9種類の精油全体で156種類の揮発性成分が同定されました。LJEOについては、リナロール、パラシメン、ボルネオール、シネオール類、リモネンといった成分が豊富に含まれていたことが特徴として挙げられています。また、増殖曲線の観察とSEMによる観察から、LJEOは細菌の増殖を抑えるとともに、菌の細胞表面の構造にも損傷を与えていたことが確認されたとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、実験室内での抗菌活性やバイオフィルム除去効果を評価したものであり、食品への実際の応用や、ヒトが摂取した場合の安全性・効果を検証したものではありません。研究は湖南農業大学生物科学技術学院などに所属する研究者らによって実施されました。天然由来の抗菌候補としての可能性が示唆される結果ではありますが、これは一つの研究であり、実際の食品保存への応用可能性や安全性については、さらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
この研究では、中国の伝統薬用植物に由来する9種類の精油の抗菌力とバイオフィルム除去効果が比較され、特にスイカズラ由来の精油が黄色ブドウ球菌やリステリア菌などに対して目立った働きを示したことが報告されました。天然の抗菌候補としての将来性が示唆される一方、あくまで実験室レベルの評価であることを踏まえて受け止める必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wenbin Xiao, Xiaotong Liu, Xinjia Tan, et al. Essential Oils Derived from Traditional Chinese Medicinal Herbs as Natural Antimicrobial Candidates for Foodborne Pathogen Control: Antibacterial Activity, Biofilm Removal, and Volatile Composition. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152675. 原著ライセンス: cc-by.