著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Frontiers in Fungal Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ナノ粒子は、1〜100ナノメートルほどの非常に小さな粒子です。同じ物質でも、大きな塊とは異なる性質を示すことがあります。農業では、さまざまなナノ粒子が病原菌やカビを抑える材料として研究されてきました。著者らによれば、銀や銅のナノ粒子は強い抗菌作用を持つ一方で、製造コストが高いことが課題です。また、高濃度では植物に害を与えることや、生物の体内への蓄積、土壌微生物や水中の生物への影響も懸念されています。酸化亜鉛や酸化銅のナノ粒子は、より低いコストで同程度の効果が得られます。ただし、使う量に応じて植物に害が出ることや、繰り返し使うと土壌にたまることが懸念されています。
そこで研究チームは、捨てられるオレンジ(スイートオレンジ)の皮を原料の一部に使い、酸化ランタン(La2O3)のナノ粒子を作りました。植物の成分を利用して化学反応を進めるこうした方法は「グリーン合成」と呼ばれます。研究チームは得られた粒子の性質を確かめたうえで、野菜の病気を引き起こす2種類のカビの生育を抑えられるかを調べました。
粒子の作り方と性質の確認
材料には、インドのヴェロール工科大学の学内食堂で出たオレンジの皮を使いました。皮を乾燥させて粉にし、温水で成分を抽出します。この抽出液を硝酸ランタンの溶液と混ぜ、アルカリ性の条件でかき混ぜました。できた沈殿を集めて乾燥させ、最後に700℃で3時間加熱すると、白い粉末が得られました。
研究チームは、この粉末をいくつかの分析法で調べました。X線を当てて結晶の構造を見る分析では、立方晶の酸化ランタンの標準データと一致するピークが得られました。赤外線の吸収を見る分析では、ランタンと酸素の結合を示す吸収が新たに現れました。あわせて、オレンジの皮に由来する有機成分が粒子の表面に一部残っていることも示されました。
電子顕微鏡で観察すると、粒子の形は不規則な薄片状から球に近いものまでさまざまで、多くが寄り集まっていました。元素の組成は、重量比でランタン47.4%、酸素35.9%、炭素16.7%でした。これら以外の元素は検出されませんでした。著者らは、炭素の多さを、皮に含まれるポリフェノールなどの植物成分が粒子表面に残っている証拠と解釈しています。
2種類の病原カビに対する効果
対象にしたのは2種類のカビです。1つはトマトの「輪紋病(早期疫病)」の主な原因となるアルテルナリア・ソラニ、もう1つはトウガラシの「炭疽病」の重要な原因となるコレトトリカム・カプシシです。
試験は寒天培地の上で行いました。ナノ粒子を1、5、15mg/mLの濃度で培地に混ぜ、中央にカビの小片を置いて、7日間にわたり菌糸の広がりを測りました。比較のため、市販の殺菌剤(カルベンダジムとマンコゼブの混合剤)を5mg/mLで加えた培地と、何も加えない培地も用意しました。
アルテルナリア・ソラニでは、5mg/mLと15mg/mLの両方で菌糸の生育が完全に止まりました。これは市販殺菌剤と同じ結果です。1mg/mLでも、生育は無処理と比べて24.4%抑えられました。さらに著者らによると、15mg/mLのナノ粒子は2日目に完全な抑制に達し、4日目だった市販殺菌剤より2日早かったとのことです。
コレトトリカム・カプシシでは、濃度が上がるにつれて効果が段階的に強まりました。抑制率は5mg/mLで61.5%、15mg/mLで86.8%です。1mg/mLでは9.9%にとどまり、無処理との明確な差はありませんでした。このカビの生育を完全に止めたのは市販殺菌剤だけでした。また著者らは、ナノ粒子を加えたすべての培地で、両方のカビとも胞子がつくられなかったと報告しています。
カビによって効き方が違った理由について、著者らは細胞壁の違いが最も考えられる説明だとしています。コレトトリカム属は、メラニンを多く含む厚い細胞壁を持つためです。ただし、これは考察として示された見方です。
研究が示すこと
この研究は、捨てられるオレンジの皮を利用して酸化ランタンのナノ粒子を作れることを示しました。さらに、その粒子が濃度に応じて病原カビの生育を抑えることを、培地上の実験で確かめました。効果はカビの種類によって異なりました。トマトの輪紋病菌には市販殺菌剤並みの抑制が見られた一方、トウガラシの炭疽病菌では市販殺菌剤に及びませんでした。
著者らは本研究を、2種類のカビに絞った概念実証、つまり考え方が成り立つかを確かめる段階の研究と位置づけています。そのうえで、果物の皮由来のこのナノ粒子が、環境に配慮した抗カビ材料として有望だと結論づけています。
原著論文の著者・所属:Shakthika Ramesh(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)、Appireddy Khyathi(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)、Hema sree Mandapati(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)、Vikram S.(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)、Varshini Kumar(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)、Theivasigamani Parthasarathi(epartment of Genetics and Plant Breeding, Vellore Institute of Technology (VIT) School of Agricultural Innovations and Advanced Learning (VAIAL), Vellore Institute of Technology, Vellore, Tamil Nadu, India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shakthika Ramesh, Appireddy Khyathi, Hema sree Mandapati, et al. Biogenic synthesis and characterization of lanthanum oxide nanoparticles using citrus sinensis peel waste for antifungal applications in crop protection. Frontiers in Fungal Biology 2026-09-11. DOI: 10.3389/ffunb.2026.1925291. 原著ライセンス:CC BY.