紅麹(Red Yeast Rice、RYR)は、Monascus purpureusというカビの一種(紅麹菌)を米に生やして発酵させた、東アジアで長年利用されてきた発酵食品です。食品としてだけでなく食品添加物としても使われてきました。紅麹には「ロバスタチン」という成分が含まれており、コレステロールを下げる働きを持つことが知られています。今回紹介する研究では、いつもの「米」ではなく「シコクビエ(フィンガーミレット)」という雑穀を紅麹菌で発酵させた場合に、同じようにロバスタチンが作られるのかどうかを調べています。

研究でわかったこと

研究チームは、Monascus purpureusでシコクビエを発酵させ、そこからロバスタチンを抽出・精製し、いくつかの分析手法でその正体を確かめました。まず薄層クロマトグラフィー(TLC)という手法では、抽出物中の成分のRf値(物質の移動しやすさを示す指標)が0.68で、標準品のロバスタチン(0.69)と近い値を示しました。さらにHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による定量分析では、シコクビエ発酵物1gあたり7.63mgのロバスタチンが含まれており、検出されるまでの時間(保持時間)も6.02分と、標準品の6.10分に近い値でした。

この成分はカラムクロマトグラフィーという方法でさらに精製され、各フラクション(分画)はTLCで確認されました。精製した化合物をFTIR(赤外分光)で分析したところ、ロバスタチンに特徴的な「ラクトン環」由来のピークが1765cm⁻¹に検出され、標準品と一致しました。加えてNMR(核磁気共鳴)分析でも、分子式や分子量が標準品と同一であることが確認されたとされています。

さらにこの精製ロバスタチンについて、DPPHアッセイという方法で抗酸化活性も調べられました。その結果、400μg/mLの濃度で71%の抗酸化作用(フリーラジカルの消去率)が確認され、比較対象とした標準的な抗酸化物質であるアスコルビン酸(ビタミンC、85%)にはやや及ばないものの、一定の抗酸化活性を示したと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、紅麹菌の発酵基質として一般的な米ではなく、シコクビエという雑穀を用いてもロバスタチンが生成され、抗酸化性を持つ可能性が示されたという内容です。研究チームは、シコクビエがロバスタチン生産のための基質として有望であり、大規模生産や機能性食品としての活用につながりうると述べています。ただし、これは実験室レベルでの抽出・分析結果に基づく一つの研究であり、ヒトが実際に食べた場合の効果や安全性を直接示したものではない点には注意が必要です。結論が確定したものではなく、今後さらなる研究の積み重ねが必要な段階といえます。

まとめ

紅麹菌でシコクビエを発酵させることで、標準品と一致する構造を持つロバスタチンが一定量得られ、精製したロバスタチンには抗酸化活性も認められたと報告されています。雑穀を用いた新しい発酵食品素材の可能性を示す基礎研究として興味深い内容ですが、今回の結果はあくまで分析化学的な検証にとどまる点を踏まえて読むとよいでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Monascus purpureus発酵シコクビエからのロバスタチンの抽出、精製および生物活性評価(フード・セーフティ・アンド・ヘルス・2026年01月)