食用きのこのヒラタケ(Pleurotus ostreatus)は、食材としてだけでなく、穀物などの基質を発酵させる「発酵担い手」としても注目されています。ヒラタケの菌糸が穀物の中で成長する過程で、栄養成分や抗酸化にかかわる物質がどのように変化していくのかを、時間を追って詳しく調べた研究がフロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に発表される予定です。
この研究は、ウクライナとドイツの研究機関に所属する研究者らによって行われました。著者の所属にはウクライナのキーウ工科大学やウクライナ国立科学アカデミー食品生命工学・ゲノミクス研究所、ドイツのユストゥス・リービッヒ大学ギーセンの食品化学・食品生命工学研究所、トルコのオスマニエ・コルクト・アタ大学などが含まれています。
小麦と米をヒラタケで42日間発酵させる実験
研究チームは、小麦と米という二種類の穀物をそれぞれヒラタケで固体発酵させ、25℃の環境下で42日間にわたり観察しました。見た目の観察では、どちらの穀物も21日目までに菌糸がすみずみまで行き渡ったことが確認されています。その後、21日目から42日目までの間、抗酸化活性、複数の酵素活性、総フェノール含量が両方の穀物について測定されました。さらに、この結果を踏まえて小麦については、一般成分(たんぱく質・脂質・炭水化物・灰分など)とアミノ酸組成についても詳しく分析されています。
酵素活性の変化は、穀物の種類によって異なるパターンを示したと報告されています。小麦では、エステラーゼとラッカーゼの活性が35日目にピークを迎え、ペルオキシダーゼ活性は42日目に数値上最も高くなったものの、35日目との間に統計的な差は見られなかったとされています。一方、米ではエステラーゼ活性が42日目に最も高く、ラッカーゼ活性は28日目、ペルオキシダーゼ活性は21日目にそれぞれピークを示しました。なお、アリールアルコールオキシダーゼという酵素の活性は、両方の穀物で低い水準にとどまったということです。
フェノール量や抗酸化活性、たんぱく質の変化
総フェノール含量とDPPHラジカル消去活性(抗酸化力を評価する指標の一つ)は、発酵の進行とともに増加する傾向が見られました。小麦ではこの二つの指標がいずれも28日目に最も高い値を示した一方、米では総フェノール含量が発酵後期(35〜42日目)に、DPPHラジカル消去活性は35日目に、それぞれピークに達したと報告されています。
小麦についてのさらに詳しい分析では、真のたんぱく質含量が発酵期間中に乾物あたり6.43g/100gから18.65g/100gへと増加したことが示されました。これに伴って灰分含量も増加し、炭水化物含量は徐々に減少する一方、脂質含量は比較的安定していたとされています。アミノ酸組成にも変化がみられ、ヒスチジン、グルタミン酸、リジンが有意に増加したことが報告されています。真のたんぱく質量と総アミノ酸量は42日目まで増加を続けましたが、必須アミノ酸のバランスという観点では28日目が最も整った状態であったとされています。
この研究をどう読むか
研究チームは、最適な発酵期間は最終製品に求める特性によって異なると結論づけており、栄養価や機能性を高める目的で穀物を固体発酵させる際には、発酵の進み具合を継続的に確認することの重要性を指摘しています。つまり、フェノール量や抗酸化活性を重視するのか、たんぱく質量を重視するのか、アミノ酸バランスを重視するのかによって、望ましい発酵の長さが変わりうるということです。
本研究は小麦と米という特定の穀物をヒラタケという特定の菌で発酵させた実験室レベルの結果であり、この一つの研究をもって効果や結論が確定したものではありません。他の穀物や菌株、発酵条件でも同様の結果が得られるかどうかは、今後の研究を待つ必要があります。
まとめ
この研究では、ヒラタケによる固体発酵を通じて、小麦や米の総フェノール含量、抗酸化活性、酵素活性、たんぱく質・アミノ酸組成が時間とともに変化していくことが示されました。発酵日数によって現れる特徴が異なるため、目的に応じた発酵期間の見極めが重要であることが示唆されています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Tetiana Zhuk, Tetiana Zhuk, Dmytro Bakhlukov, et al. Changes in nutritional composition and bioactivity of fermented cereals under Pleurotus ostreatus solid-state fermentation. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1919003.