掲載誌:Institutional Archive of Ifremer (French Research Institute for Exploitation of the Sea)

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: DataCite

研究の目的

海洋生物の病理・疾病に関する作業部会の著者らは、各国から寄せられた情報をもとに、天然と養殖の魚類、貝類、甲殻類で新たに確認された病気や、その発生動向を整理しました。継続的に病気の変化を把握するとともに、水温上昇などの気候に関わる出来事と、水生動物の健康との関係にも目を向けた報告です。

何を、どのように調べたか

著者らは、加盟国が提出した国別報告と、2026年の作業部会での検討を通じて、2025年の疾病情報を取りまとめました。共通の条件で一つの実験を行った研究ではなく、各地の発生事例、前年からの変化、死亡状況、病原体の検査結果などを整理したものです。従来の主な対象である魚類、貝類、甲殻類に加え、2025年は4か国の報告にウミガメや海生哺乳類の情報も含まれました。

個別の事例では、組織を観察して病変を調べる検査や、病原体の遺伝物質を検出するPCR検査などが使われています。検査対象や調べ方は事例によって異なり、死亡が起きた場所での検査だけでなく、死亡が報告されていない場所での監視調査も含まれています。

主な報告結果

養殖魚では、新たなウイルスの検出や、既知の病気の拡大が報告されました。アイスランドでは2025年、サケの海面いけすで魚体の寄生虫を取り除くために飼われるランプフィッシュから、CluVというウイルスが初めて検出されました。ノルウェーでは、養殖タイセイヨウダラの複数の海面養殖場でタラ鰓ポックスウイルスが検出され、年末には一部の養殖場で高い死亡率が報告されました。

ノルウェーのタイセイヨウサケでは、細菌によるパスツレラ症が診断された養殖地点が、2024年の29地点から2025年には34地点に増え、発生域が北へ移っていると報告されました。著者らは、寄生虫を除去する処置の増加や水温上昇による魚へのストレスが、細菌感染へのかかりやすさに関係するという仮説を紹介しています。

貝類では、アイルランドのマガキで、細菌のビブリオ・エスチュアリアヌスに関連する死亡が2025年の最も一般的な問題として挙げられました。南西岸の4つの生産湾で5月から10月に死亡が報告され、主に成長途中のカキが影響を受けました。現場から報告された死亡率は10~70%でした。一方、スペインのカタルーニャでは、死亡事例がなかった年の監視調査でも、この細菌が一つの混合試料から検出されました。

気候に関わる動向として、カナダのブリティッシュコロンビア州では、海と川を行き来するサケ科魚類で、細菌によるカラムナリス病の発生が過去3年間に増えたと報告されました。それ以前には発生はまれでした。著者らは、この病気が水温16℃を超えると起こりやすいことから、水温上昇が増加傾向の一因になっていると推測しています。

この報告が示すこと

この報告は、病原体の新たな出現だけでなく、発生する地域や環境条件の変化も含めて、海洋生物の病気を継続的に捉えるものです。ただし、病原体が見つかったことと、それが死亡の原因であることは区別されています。著者らは、ランプフィッシュやタイセイヨウダラではほかの病原体も同時に検出されており、個々のウイルスが死亡や症状にどれだけ関与したかを判断しにくいとしています。各地の観察を集めることで変化の兆しを示しつつ、原因がまだ明確でない事例も残した報告です。

原著論文の著者・所属:ICES

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):ICES. Working Group on Pathology and Diseases of Marine Organisms (WGPDMO). Institutional Archive of Ifremer (French Research Institute for Exploitation of the Sea) 2026-10-29. DOI: 10.17895/ices.pub.34162011. 原著ライセンス:CC BY.