ウイスキーやブランデーが樽で熟成されると色や香りが豊かになることはよく知られています。しかし、大きな木樽を使わずに、木材チップを漬け込む方法でも似た効果が得られるのか、そしてチップの木の種類や焙煎(トースト)の度合いによって仕上がりがどう変わるのかは、まだ体系的に検証される余地がある課題でした。今回紹介する研究は、リンゴの蒸留酒(アップルブランデーのようなもの)を対象に、オーク(樫)、チェリー(桜)、栗、ジュニパー(西洋ネズ)という4種類の木材から作られたチップを、それぞれ異なる焙煎度で漬け込み、酒の質にどのような違いが生まれるかを調べたものです。
どのように調べたのか
研究チームは、木材の種類と焙煎度合いを組み合わせた複数の条件でリンゴ蒸留酒を熟成させ、何も加えていない対照サンプルと比較しました。分析には、ポリフェノール総量や抗酸化活性を調べる分光光度法、酸度やエステル含量を調べる滴定法、色合いを数値化するCIELab(色を明度・色相などの座標で表す方法)、そして香り成分の種類を細かく特定するGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)といった複数の化学分析手法が用いられました。さらに、実際に人が飲んで香りや味わいを評価する官能分析も行われています。
研究でわかったこと
複数の分析を総合すると、栗材のチップを使った蒸留酒が、他の木材と比べて最も良好な結果を示したと報告されています。特に焙煎度合いは「中程度(ミディアムトースト)」が最も適していたとされました。オーク材とチェリー材を使った蒸留酒も比較的良い結果を示しましたが、有効成分の濃度などの点では栗材にやや劣る結果だったということです。また、チェリー材のチップを高温で焙煎した場合には、蒸留酒の化学組成に良い影響は見られなかったとされています。一方、ジュニパー材のチップを使った蒸留酒は、他の木材とは異なる独特な物理化学的・官能的特徴を示し、多くの点で無添加の対照サンプルに近い結果になったことも報告されています。
この研究の位置づけ
この研究は、木材の種類と焙煎度合いという2つの要因を組み合わせて、蒸留酒の化学成分と官能評価の両面から検証した一つの実験結果です。今回はリンゴ由来の蒸留酒を対象としており、他の原料から作られる蒸留酒でも同じ傾向が当てはまるかどうかは、この要旨の範囲だけでは分かりません。また、著者らはポーランドのクラクフ農業大学に所属しています。日本の伝統的な木材である杉や桜、あるいは日本酒・焼酎の熟成との関連については、この論文の中では触れられていません。特定の木材や焙煎法が酒の風味を「良くする」と断定するものではなく、あくまで測定された成分や色、官能評価の傾向を報告した研究として捉えるのが適切です。
まとめ
今回の研究では、リンゴ蒸留酒を栗・オーク・チェリー・ジュニパーの木材チップで熟成させ、化学分析と官能評価を組み合わせて比較した結果、栗材と中程度の焙煎の組み合わせが総合的に良好な結果を示したことが報告されました。ただしこれは一つの研究であり、木材や焙煎条件による酒質への影響について、すべての酒類や条件に一般化できる結論が確定したわけではありません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Tomasz Tarko, Maryna Liubko. The Effect of Wood Chips with Various Degrees of Toasting on the Quality and Sensory Parameters of Fruit Distillates. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31152691. 原著ライセンス: cc-by.