大麦を発芽させると栄養価が変わることは知られていますが、発芽前の種子に特定の微生物を接種する「バイオプライミング」という処理を加えると、さらに成分が変化する可能性があります。今回紹介する研究では、この微生物バイオプライミングという手法を使って大麦の発芽抽出物の成分を変化させ、その機能性を調べています。フェノール類やビタミンなど、食品由来の成分が神経系にどう関わるのかという話題に関心がある方には興味深い内容です。
研究でわかったこと
研究チームは、通常どおり発芽させた大麦抽出物(GBE)に加え、発芽前の大麦種子に2種類の微生物――枯草菌(Bacillus subtilis)または黒麹菌(Aspergillus niger)――をそれぞれ接種してから発芽させた2種類のバイオプライミング処理抽出物(枯草菌処理のGBB、黒麹菌処理のGBF)を作製し、比較しました。クロマトグラフィーや分光分析といった手法で成分を詳しく調べたほか、試験管内での抗酸化能の評価、さらにグルタミン酸ナトリウム(MSG)投与によって注意欠陥・多動性障害(ADHD)に似た状態を誘発したラットモデルを用いた生体内での効果検証も行われました。
その結果、枯草菌を用いたバイオプライミング処理物(GBB)が最も顕著な機能性を示したと報告されています。GBBはフェノール酸類や、ビタミンB2・B9・B12を中心とするビタミンB群が特に豊富になっていたとのことです。そして、こうした成分プロファイルの変化に伴い、ラットの運動活動性や空間記憶の改善、神経伝達物質のバランスの回復、酸化ストレスや神経炎症に関わるシグナルの抑制、さらに細胞の生存に関わるとされるオートファジー(自食作用)関連経路の活性化が認められたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、枯草菌によるバイオプライミングが発芽大麦の神経保護に関わる機能性を高める、持続可能な手法となりうることを示すものだと論文では位置づけられています。ただし、これはラットを用いた動物実験の結果であり、ヒトでの効果が同様に得られるかどうかは、この要旨からは分かりません。また、一つの研究で得られた知見であり、結論が確定したものではない点にも留意が必要です。今後、ヒトを対象とした研究などを通じてさらに検証が進むことが期待されるテーマといえるでしょう。
まとめ
大麦種子に枯草菌や黒麹菌を接種してから発芽させるバイオプライミングという処理により、フェノール酸やビタミンB群を豊富に含む発芽大麦抽出物が得られ、特に枯草菌処理物ではMSG誘発ADHD様ラットモデルにおいて運動活性や空間記憶の改善などが認められたと報告されています。この結果は、発芽大麦を機能性食品素材として活用する可能性を示唆するものとされていますが、あくまで動物実験段階の知見である点を踏まえて受け止めることが大切です。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:発芽大麦の微生物バイオプライミングはフェノール類とビタミンB群を増強し、MSG処理ラットの神経行動を改善する(エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード・2026年07月)