タロイモ(Colocasia esculenta)は、炭水化物を豊富に含む根菜(イモ類)の一種で、ブラジルでも栽培されています。地下にできる大きな塊茎は「球茎(コーム)」、その周囲にできる小さな塊茎は「子球茎(コーメル)」と呼ばれますが、これまで市場では子球茎の方が高く評価される傾向にあり、球茎は相対的に評価が低いとされてきました。しかし、球茎にも栄養面や加工技術面で見過ごせない価値がある可能性があります。今回紹介する研究は、この球茎と子球茎、さらにそれぞれから取り出したデンプンを比較し、植物性食品の原料としての可能性を調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、タロイモの球茎(C)と子球茎(CL)、そしてそれぞれから分離したデンプン(球茎由来のCS、子球茎由来のCLS)について、物理化学的な性質、栄養成分、顕微鏡で見た構造(微細構造)、そして加熱時の粘度変化(糊化特性)を比較しました。
見た目については、子球茎の果肉は球茎よりも色が明るく、より均質だったと報告されています。一方で球茎は、大きさや形の規則性という点で子球茎より優れていたとされています。
栄養面では、両者に異なる特徴が見られました。球茎は食物繊維の総量とカルシウムの含有量が多く、子球茎はタンパク質、利用可能炭水化物(消化・吸収されやすい炭水化物)、カリウムの含有量が多かったと報告されています。つまり、どちらか一方が全面的に優れているというより、それぞれ異なる強みを持つ「相補的」な関係にあることが示唆されています。
電子顕微鏡による観察では、両者のデンプン粒はいずれも小さく、やや球形から多角形に近い形をしていましたが、球茎由来のデンプン(CS)は子球茎由来のデンプン(CLS)に比べて、粒の平均的な直径・周囲の長さ・面積がいずれも大きかったとされています。
加熱による粘度変化(糊化特性)についても違いが見られました。C・CL・CS・CLSいずれも、糊化が始まる温度はおよそ80℃前後と近い値でした。その一方で、子球茎(CL)は加熱時の最大粘度や最終的な粘度、冷却時の粘度上昇(セットバック)が高く、ゲルの硬さも大きかったことから、しっかりとした構造や食感が求められる食品への活用に向く可能性が示唆されています。これに対して球茎(C)は、加熱によるとろみの低下(ブレークダウン)やセットバックが小さく、熱に対する安定性が高く、冷めたときに再びかたくなる現象(老化)が起こりにくい傾向がうかがえるとされています。また、分離したデンプン単体は、もとの球茎・子球茎そのものよりも粘度が低くなる傾向が見られ、これはデンプン以外の成分が取り除かれたことに関連している可能性があると考察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ブラジルで栽培されたタロイモを対象に、球茎と子球茎という異なる部位の性質を比較した一つの研究です。得られた結果は、あくまでこの研究で調べられた試料や条件のもとでのものであり、タロイモ全般やすべての産地・品種に当てはまると断定するものではありません。また、本研究は栄養成分や加工時の物理的な特性を対象としたものであり、特定の健康効果や効能を検証したものではない点にも注意が必要です。
まとめ
今回の研究では、これまであまり注目されてこなかったタロイモの球茎が、食物繊維やカルシウムの面で、そして熱に対する安定性という加工上の特性の面でも、独自の価値を持つ可能性が示されました。子球茎とは異なる強みを持つことから、両者を使い分けることで、植物性食品の原料としての活用の幅が広がることが期待される、と研究チームは位置づけています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ブラジルで栽培されるタロイモ(Colocasia esculenta (L.) Schott)の球茎と子球茎:植物性食品原料としての栄養、微細構造、糊化特性(プラント・フーズ・フォー・ヒューマン・ニュートリション・2026年08月)