この研究は、ブラジル、ポルトガルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
鶏肉は世界で最も多く生産される食肉となり、そのなかでブラジルは最大の輸出国とされています。著者らは、家きん由来の食品が食中毒菌の重要な保有源と考えられてきたこと、そして薬剤耐性菌の広がりが人と動物の健康に影響することを背景に、鶏と体(と体=処理後の鶏の身体)から分離される細菌の耐性の状況を調べました。
研究チームが対象としたのは、サルモネラ属菌、大腸菌、そして「ESKAPE」と呼ばれる細菌群です。ESKAPEはEnterococcus faecium、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマニ、緑膿菌、エンテロバクター属菌の頭文字をとった呼び名で、世界保健機関が新しい抗菌薬の開発が特に必要な菌として挙げているグループだと論文は説明しています。目的は、これらの菌の薬剤耐性の性質を、実際に薬が効くかを調べる試験(表現型)と、遺伝子を読む解析(ゲノム)の両面から明らかにすることでした。
どのように調べたか
調査は、ブラジル農牧省の検査を受け、国内市場と輸出市場の双方へ製品を供給する食鳥処理場で行われました。著者らは内臓摘出の直後に6週間にわたり計60羽分のと体を採取し、消化管内容物による目に見える汚染があるものと、汚染が見えないものを各30羽ずつ選びました。菌の種類はMALDI-ToFという質量分析の手法で確認しています。
薬剤耐性は、寒天培地上で薬剤を含むディスクの周りに生じる発育阻止帯の大きさを測る方法(ディスク拡散法)で評価し、国際的な判定基準に従って解釈しました。3系統以上の抗菌薬に耐性を示す菌は多剤耐性と分類されています。また、幅広いβ-ラクタム系抗菌薬を分解する酵素である基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)の産生も検査しました。さらに、耐性の特徴が異なる代表的な菌株について全ゲノム解析を行い、耐性遺伝子やプラスミド(菌の間で受け渡される小さな環状DNA)、菌の系統を示す配列型(ST)を調べ、公開データベースの菌株との遺伝的な近さを一塩基多型(SNP)の数で比較しています。
主な報告結果
論文によると、サルモネラ属菌48株と大腸菌99株が得られ、ESKAPEに含まれる菌としては肺炎桿菌68株、エンテロバクター属菌53株、緑膿菌59株、アシネトバクター・バウマニ14株、黄色ブドウ球菌10株が分離されました。Enterococcus faeciumは分離されていません。サルモネラでは血清型Minnesotaが最も多く、全体の50%を占めたと報告されています。
腸内細菌目の菌では多剤耐性とESBL産生の割合が高く、ESBL産生はサルモネラ属菌の52.1%、大腸菌の56.6%、肺炎桿菌の13.2%で確認されました。サルモネラでは少なくとも1剤に耐性を示した25株すべてが多剤耐性に分類され、そのうち24株(96%)が血清型Minnesotaでした。大腸菌では99株中97株が少なくとも1剤に耐性を示し、84.8%が多剤耐性でした。肺炎桿菌は全株が少なくとも1剤に耐性で、47.1%が多剤耐性でした。一方、緑膿菌では多剤耐性の株はなく、黄色ブドウ球菌ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は検出されなかったと述べられています。
ゲノム解析では、臨床で問題となる耐性の遺伝子が見つかりました。サルモネラでは、第三世代セファロスポリンなど広域のβ-ラクタム系への耐性に関わるblaCMY-2と、キノロン系への耐性に関わるqnrB19が全株で確認され、これらはIncA/C2およびCol440Iというプラスミドと関連していました。大腸菌と肺炎桿菌では、blaCTX-M-15やblaCTX-M-55といったESBLに関わる遺伝子が検出されています。菌の系統を調べたところ、サルモネラMinnesotaはすべてST548で、大腸菌には国際的に広がる高リスク系統のST38が、肺炎桿菌には同じく高リスク系統のST307が含まれていました。SNPによる比較では、本研究のサルモネラMinnesotaが中国の鶏肉由来株と31塩基の違いで最も近く、またブラジルのヒト由来株とは33塩基の違いなど、ヒトからの分離株とも遺伝的に近い関係にあったと報告されています。なお大腸菌ST38の株は、ヒト由来株とは明確に離れ、ブラジルの鳥類由来の1株とのみ近縁(90塩基の違い)でした。
この研究が示すこと
著者らは、これらの結果が、鶏肉製品が臨床的に重要な多剤耐性菌の保有源となりうることを示すものであり、家きん生産チェーン全体を通じた継続的な薬剤耐性の監視の重要性を裏づけると述べています。
論文はまた、ブラジルの食鳥処理場に義務づけられているサルモネラの監視が5つの血清型に限られており、国内の家きん産業で目立つようになったMinnesotaは対象に含まれていないことにも触れています。食肉の生産から流通までを見渡した耐性菌の把握が、食の安全を考えるうえでの手がかりになる——本研究が伝えているのは、そうした視点です。
著者:Isabela Pádua Zanon(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Rafaela Assis Machado(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Thayanne Gabryelle Viana de Souza(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Bruno Leandro de Almeida Brito(Ministério da Agricultura e Pecuária)、Tales Fernando da Silva(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Tadeu Chaves Figueiredo(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、M.R. Souza(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Júlio César Câmara Rosa(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Henrique César Pereira Figueiredo(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、RODRIGO OTÁVIO SILVEIRA SILVA(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))、Silvana de Vasconcelos Cançado(Escola de Veterinária, Universidade Federal de Minas Gerais (UFMG))
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Isabela Pádua Zanon, Rafaela Assis Machado, Thayanne Gabryelle Viana de Souza, et al. Antimicrobial resistance and genomic characterization of Salmonella Minnesota, ESBL-producing Escherichia coli, and ESKAPE pathogens isolated from Brazilian broiler chicken carcasses. Frontiers in Microbiology 2026-09-15. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1917698. 原著ライセンス:CC BY.